私たちは、ソマリアやインドネシアで海賊およびテロ行為に関与した経験を持つ方々をゲストとして招待し、日本の皆様と直接対話していただくことで双方が新たな気づきを得るイベント「オンライン対話ミッション」を開催しています。
ゲストや参加者同士での対話を通じ、海賊やテロ行為などに関与した人を双方がどのように捉えるのか、そしてこれらの問題解決に向けて私たちは何をすべきなのか、じっくりと考え思考を積み重ねていくことを目指します。
本レポートでは、ソマリアの元海賊アハメドさんとの対話ミッション(2022年5月28日(土)、29日(日)の2日間開催)の様子をお届けします!
アハメドさんは、内戦が続く東アフリカのソマリア出身で、2011年にソマリア沖にて航行中の日本船籍のタンカーに海賊行為を行ったとして拘束され、日本に送致後8年間服役していました。ソマリアへ帰国後は、警備や土木関連の仕事をし、現在は当法人の職員として、いわゆるテロ組織アル・シャバーブからの投降兵・逮捕者に対する脱過激化・社会復帰支援活動に携わっています。
対話ミッションは、主に以下4つのパートで構成されています。
①イベント前の事前講義(オンデマンド)
②対話に向けた参加者間のグループワーク
③ゲストとの双方的な対話
④参加者間の全体議論
今回はこれらを通じて「海賊を含むグローバルな社会課題の解決に向けて私たち一人一人はどのように向き合い何をすべきか」をゲスト・ご参加者様全員で考えました。
事前講義では、ゲストとの対話やご参加者様同士で話し合っていただく上で必要な情報を動画でご説明します。今回は、世界や日本の歴史をさかのぼり海賊がどういった存在として機能し認識されてきたのか、また海賊に限らず深刻な犯罪行為などに加担した人々の複雑な背景や社会復帰において抱える困難などについてお話しました。
イベント初日には事前講義の内容を踏まえ、3~4人のグループで感想や意見を出し合うとともに、ゲストとの対話で話し合いたいトピックをまとめました。講義やグループワークを通して、「海賊に対するイメージが変わった」、「海賊などに関わった人が社会に戻り人々と改めて関係を作っていくことの難しさを感じた」といったコメントが挙げられました。
本イベントの目玉であるゲストとの対話セッションは、約2時間じっくりと対話をしていきます。ゲストの自己紹介やアイスブレイクの後に、参加者・ゲスト双方が話し合いたいトピックを挙げ意見を交換していきます。今回のゲストであるアハメドさんは、服役中に自主的に日本語を勉強していたこともあり、「皆さん、お疲れ様です!」と軽やかな挨拶で参加してくださり、時折日本語でのコミュニケーションも挟みながら和やかな雰囲気を作ってくれました。
対話では、アハメドさんが日本で服役していた時の生活や心境、ソマリアに戻った際の家族や周りの反応、現在の心境や今後の夢についてなど色々なお話をしてくれました。例えば、ご参加者様の「服役を終えソマリアに戻った際に、周りの人々からどのような反応を受け、アハメドさん自身はどのように対応したのか」という質問に対しては、「周りの多くの人が自分が逮捕され服役していた事実を知っており、一部の人には強く非難された。しかし服役中に自分自身の過去にじっくりと向き合い考えを改めていたため、周りの反応も受け止めながら時間をかけて非難を払拭できるように努めた」という、彼自身の社会復帰への苦悩やその当時の想いを具体的に話してくださいました。
また、アハメドさんに一方的に質問をするだけでなく、海賊に対するイメージなどについてご参加者様から共有するとともに、海賊に関与した人が社会に復帰するとはどういうことか・どうすればいいのかといったトピックについて、積極的に話し合いました。その際には、アハメドさん以外の元海賊の方々の事例なども伺いながら、「彼らが考えを変えるにはどうすればいいのか」「彼らの変化を促す過程での社会や周りの人の存在の重要性」を、アハメドさんとご参加者様それぞれの視点から意見を出し合いました。これをもって1日目は終了となりました。
2日目にはまず、対話セッションを経て考えたこと・感じたことをグループごとに共有いただきます。グループ発表では、アハメドさんとの対話に対する率直な感想・問題の解決に向けて海賊に加担した人をどのように捉えるべきか・今後さらにアハメドさんと話し合いたいこと、などについて様々な意見を共有いただきました。ご参加者様からは、アハメドさん本人に苦悩や想いを伺い共に考える機会を持つことができて心に響くものがあった、対話を通じて所謂社会課題の「加害者」と一括りに考えることに対し疑問を持った、といった本当に多くの意見を挙げていただきました。
グループ発表後には、海賊を含むグローバルな社会課題の解決に向けて私達は何ができるのか・どうすべきなのかを、改めて全員で話し合います。ここでは、アハメドさんなど所謂社会課題の当事者とは異なる「私たちが」どうすべきなのかに焦点をあてます。対話を通じて得た参加者の方それぞれの気づき・考えを、様々な角度から意見を交換していただきました。
本ミッションには様々な年代・バックグラウンドを持つ方々に参加いただきました。ご参加者様の感想の一部をご紹介します。
・アハメドさんと実際にお話をすることで、改めて自分と全く異なる背景を持つ人の存在を強く認識し、海賊などの社会の問題について深く多角的に考えるとても貴重な機会になった。(10代・女性)
・いわゆる「加害者」の方々への認識が自分の中でがらっと変わったのを感じた。アハメドさんのような方の複雑な背景や想いをしっかり認識した上で、では自分はどうするのかを考え続けたいと思った。(20代・男性)
・海賊に加担してしまった人が社会に戻っていくとは何なのか・更生するってどんなことを言うのか、などこれまで向き合ってこなかった正解のない難しい問題に対して、アハメドさんのご意見も交えながらじっくり考え議論できたことがとても貴重な経験になった。(30代・女性)
・私自身が社会の問題に対して何ができるか、どうしていくべきかという問いはとても重要で深いと思った。今回だけで終わらず定期的に、また何か事件などを見る度に自分の中で考えていきたい。(30代・男性)
私たちはこれまでテロや紛争の解決に向けて、所謂テロリストなどの社会課題の当事者の方々に向き合い、対話を通して彼らが前向きに社会に戻っていく過程に寄り添ってきました。そういった経験を通じて、深刻な問題であっても当事者の方々だからこそ言えること・できること、そして彼らとは背景や考え方が異なる私たちだからこそ言えること・できることがあると実感してきました。
だからこそ私たちは今後も、元テロリストや海賊などの方々と日本の皆様が直接的に言葉や考えや想いを交わし、それぞれの考え方を少しずつ変えていく機会を、深刻な問題の解決に向けた重要な「ミッション」と捉え継続して参ります。
オンライン対話ミッションの詳細や今後の開催予定につきまして、当法人ウェブサイトの下記のページをご覧ください。
皆様のミッションへのご参加を心よりお待ち申し上げております!
▶ オンライン対話ミッション詳細ページはこちら
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