活動報告
【インドネシア事業部】オンライン過激化防止のための取り組み―成果と展望―

インドネシアでは、刑務所を出所したいわゆるテロ組織の元構成員の脱過激化・社会復帰支援に加え、2020年11月からはトヨタ財団からの助成事業として、近年問題になっている「オンライン過激化」を防止するためのコンテンツ制作に取り組んできました。

オンライン過激化とは、一般に、オンライン上での過激な言論に触れたり、いわゆるテロ組織などのプロパガンダに晒されたりすることを通じて個人が過激化することを指します。これまではリスクの高いアカウントやコンテンツの削除など、受動的かつ技術的な対策が中心でしたが、より積極的な対策が取られる必要があるとの問題意識から、本プロジェクトは始まりました。

テロリズムを専門とする大学教員や犯罪心理学の研究者、映像制作の脚本家やインドネシアを専門とする学生など多様なバックグラウンドを持つメンバーが議論を重ね、2022年10月に本プロジェクトの成果物である動画が2つ完成しました。

▲動画において若者が過激なプロパガンダに飲み込まれていくシーン

動画のキーメッセージは、家族・友人からの言葉や幼少期の思い出などの過去を振り返り、自身のアイデンティティを取り戻すことです。先行研究の成果に加え、私たちが現場での活動を辻て培った知見をもとに選ばれたキーメッセージですが、特に参考にしたのは、2002年にインドネシアのバリ島での爆弾テロ事件に関わっていた過去をもち、私たちの支援対象者でもあったジャックさんの体験談です。

現在、ジャックさんはいわゆるテロ組織の元構成員の社会復帰支援にも従事していますが、彼が組織から抜け出し、社会復帰を目指したきっかけは、家族からの温かい言葉や一緒に過ごした時間を振り返ったことによって、本来の自分の人生を思い出したことでした。だからこそ本動画では、重要な他者との関係性や好み・感情など、個人のルーツに関する振り返りを促すことで、過激化防止を目指しています。

本プロジェクトはインドネシアおよび日本の若者の過激化防止に寄与することを目的としており、それぞれの国の文脈に合わせるため、2本の動画を制作しています。

インドネシア向けに制作した動画「見つめる勇気」では、生活に不満や課題を抱える若者がSNSに流れる過激なプロパガンダに染まりそうになりつつも、家族との思い出を振り返ることで自分自身を取り戻すストーリーを描いています。

▶︎見つめる勇気:https://youtu.be/6r-ixklQe30(日本語字幕版)

日本向けに制作した動画「そのドアノブは内側に」は、社会から孤立し自分を見失った若者が、自分本来の価値観友人などの大切な存在を再確認することで、社会との関わりを構築していく過程を描写しています。

▶︎そのドアノブは内側に:https://youtu.be/nQQnbZ4c_Y4(日本語字幕版)

本動画の効果検証のため、ランダムに選んだインドネシア・日本の学生を対象としたアンケート調査を実施したところ、動画を視聴した若者の「ありのままの自身を受け止め、自由な自己表現を尊重する姿勢」が向上するという結果が得られました。

また視聴者からは「コミュニティから孤立している若者の社会的・精神的な状況に目を向けていきたい」「人間らしさ、また自分らしさを維持するために、ソーシャルメディアに囚われない生き方を心がけていきたい」との声も寄せられました。

加えて、インドネシア・日本両国の若年層(18歳以上から35歳未満)をターゲットとしてYouTube配信したところ、2022年10月末までに動画2本の合計で約66万回の再生(およそ59万人へのリーチ)を達成することができました。

▲動画を配信しているYouTubeチャンネル

過激化した当事者の立場で本プロジェクトに知見を提供いただいたジャックさんからは「SNSに固執する若者や学生の間で、このような啓蒙・啓発の重要性が高まっている。本プロジェクトが継続され、より多くの人々を巻き込み、社会的インパクトが拡大することを願っている」「との声をいただきました。また、彼が所属している現地NGOでの動画上映会をはじめとして、より多くの関係者に届けていくことも企画いただいています。

2022年10月末をもってトヨタ財団からの助成期間は終了しましたが、本動画を用いた啓蒙・啓発活動は継続しつつ、刑務所等での受刑者の脱過激化・社会復帰に向けた取り組みの拡大にも尽力してまいります。引き続き、温かなご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。




政府の意向に左右されない私たち独自の活動は、毎月1500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご支援があってこそ成り立っています。

皆様とともに、この日本からテロ・紛争の解決に挑戦していくことができれば大変幸甚です。

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