活動報告
【インドネシア事業部】元”テロリスト”への取り組みの進捗

インドネシアでの主な取り組みは、出所後の元“テロリスト”の方々の脱過激化・社会復帰支援と、オンライン過激化防止のためのコンテンツ制作です。今回は現地でこれまで実施してきた元“テロリスト”の方々への取り組みに関して、進捗を2点ご報告させていただきます。

① 中部ジャワ・スラカルタにおける元“テロリスト”への脱過激化プロジェクト
これまで取り組みを行なってきた中部ジャワのスラカルタにて、以前から受け入れていた元“テロリスト”の方々13名に加えて新規で2名を招き、合計15名に対して脱過激化セッションを実施しました。また、スラカルタ市内の保護観察所や矯正局からも15名ほどが参加しました。保護観察所は、元受刑者を対象に社会復帰を支援するための職業訓練や定期的なカウンセリングを提供している行政機関です。

しかし、そのような社会復帰プログラムは任意参加であり、刑期を終えた全ての人が保護観察所を経由して社会に戻っているわけではありません。また、刑期を終えたとしても過激な思想が残ったままのケースもありました。そこで、元”テロリスト”に関する独自のネットワークや脱過激化に関する知見を有する私たちに要請があり、彼らと協働することとなりました。

プログラムでは、インドネシアの刑務所や保護観察所の取り組みに対する元“テロリスト”の要望について話し合いました。具体的には、テロに加担してしまった人々が社会復帰するために必要なことに加え、私たちが社会全体として過激化を防ぐためにできることなどについて議論を重ねました。

ここでは「過激化」を元“テロリスト”の方々だけの問題として捉えるのではなく、社会全体の問題として捉え直すことで、彼らが当事者として問題解決に向けて考えてもらう場にしています。

▲脱過激化セッションの全体議論の様子

▲脱過激化セッションでの問題分析の様子

例えば、参加者の一人であるアリさんはこのように語ります。

「刑務所内ではテロの実行犯かどうかに限らず、テロ行為に少しでも関与していれば同じ受刑者から敬遠され、社会復帰へのサポートなどもセキュリティの面で受けられません。実際に私も、保護観察所での職業訓練をはじめとしたプログラムを受けることができませんでした」。

「また、同じ元“テロリスト”の中には、テロへの加担など、過去の経験のせいで心を病んでしまった人もいましたが、適切なケアを受けられていませんでした。仮にやり直したいと思ったとしても、それを実現する仕組みが整っていないのです」。

▲元“テロリスト”が社会復帰を達成するために必要なニーズについて話すアリさん

このような意見を踏まえて、リスクレベルが高くないテロ受刑者については、社会復帰を目指したサポートを受けられる機会を提供してほしいという要望があがりました。具体的には、ビジネスを通じて家族を養うことで現実の生活の基盤を固め、過激主義に傾かないような支援があるといい、といった意見が交わされました。

今後もスラカルタでは保護観察所や刑務所と連携し、さらなる参加者へのリーチと、社会に出てからの再過激化を防ぐための取り組みを実施してまいります。

② 最高セキュリティ刑務所での取り組み開始に向けた調整
インドネシア政府からの要請を受け、新規プロジェクト実施に向けたヒアリングやニーズ調査などを目的に、ヌサカンバンガン島に訪問しました。

ヌサカンバンガン島は、中部ジャワのチラチャプという街から船で5分ほどの距離にある離島です。島自体はジャングルのような雰囲気で、トラやヘビといった野生動物が生息しています。

また、島内にはテロ首謀者や実行犯などいわゆるテロ組織のリーダー格などが収監される最高セキュリティ刑務所をはじめとする、複数の刑務所や保護観察所等の関連施設が存在します。

▲ヌサカンバンガン島訪問時の一枚

私たちは、過去にテロに関わったことのある受刑者をターゲットとした脱過激化・社会復帰支援の実施に向けて、最高セキュリティ刑務所と保護観察所の職員に対して現状調査並びにニーズ調査を行いました。

最高セキュリティ刑務所では、いわゆるテロ組織のリーダー格による過激思想の伝播を防ぐため、受刑者1人ずつに居房が割り当てられており、各居房内に設置されているカメラを通じて担当職員が24時間体制で監視しています。

また、定期的に担当職員や政府から派遣された専門家が受刑者に対してカウンセリングを行い、言動の変化を観測しています。

▲最高セキュリティ刑務所の担当職員との意見交換

インドネシアにおけるテロ対策の第一線で活躍する一方で、常にリスクの高い受刑者たちと対峙している最高セキュリティ刑務所の担当職員は、日々の緊張感の中で精神的に疲弊して自主退職してしまう点や、人手が足りていないといった点について課題感を抱えていました。

また、保護観察所では職業訓練やライフスキルトレーニングを実施できる職員や協働先がいないこと、さらに元受刑者に対するカウンセリングについては、彼らと関係構築した上でカウンセリングを行う実践的なスキルが欠如していることが課題として挙げられました。

その後、ヌサカンバンガン島での事業開始について承認を得るため、インドネシア国内の刑務所を統括する矯正総局(Directorate General of Corrections Indonesia)にも訪問しました。

会議では、ヌサカンバンガンでの調査を経て浮かび上がった現場のニーズに対応するため、刑務所の職員を対象としたストレス・マネジメントをはじめとした研修や、保護観察所での元テロ受刑者に対する職業訓練、ケアカウンセリングの実施について提案しました。

▲矯正総局にて協働事業について提案



特に、保護観察所は社会復帰支援において重要な拠点であり、刑務所に比べると私たちのような外部の団体と協働するハードルが高すぎないことから、保護観察所での活動に重きをおいて協働することを提案しました。

ソマリアやイエメンといった紛争地の刑務所での活動実績もあることから、先方からは高い評価を受けており、現在もオンライン会議等を通じて準備を進めています。

コロナ禍がある程度落ち着いたことから久しぶりに現地に訪問し、様々な進展がありました。東南アジアにおける暴力的過激主義の拠点であるインドネシアにおいて、これまで展開してきたものに加えて意味のある取り組みを引き続き実施してまいります。




政府の意向に左右されない私たち独自の活動は、毎月1500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご支援があってこそ成り立っています。

皆様とともに、この日本からテロ・紛争の解決に挑戦していくことができれば大変幸甚です。

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