活動報告
【イエメン事業部】紛争の最前線における職業訓練およびリハビリ施設の建設開始

[2024年4月]


私たちは「世界最悪の人道危機」と呼ばれるイエメンにて活動しています。イエメンでは、武装組織フーシ派とイエメン暫定政府との間で、10年以上にわたる紛争が続いています。

そんなイエメンの中でも紛争の最前線であり、国際的な支援が十分に行き届いていないタイズ県とマアリブ県にて、若者が武器を置き、憎しみの連鎖から離脱するための取り組みを行っています。また、収容期限が定められていない戦争捕虜の解放に向けて、現地政府や軍との交渉も行ってきました。

今回は、イスラエル・パレスチナ情勢の悪化以降、日本でも報道されたフーシ派について簡単にお伝えしたあと、タイズ県での職業訓練の開始、およびマアリブ県でのリハビリ施設の建設開始や、元フーシ派捕虜の声についてご紹介します。


1.フーシ派について
Q. 組織の始まりは?
A. フーシ派(アンサール・アッラー)は1990年代にイエメン北部で結成されました。イランによる支援を受けているとされ、イエメン政府の打倒を目指しており、現在では事実上首都サナアを含むイエメン北部を実効支配しています。また、アメリカやイスラエルなどに対しても明確に反対の立場を示しています。

Q. パレスチナ問題や諸外国との関連性は?
A. フーシ派は、昨年から続くイスラエルのガザ侵攻以降、改めてパレスチナへの連帯を表明しています。親イランの立場を取り、イスラエルやアメリカ、イギリスに関連する船舶への攻撃を繰り返す中、2023年11月には日本郵船の貨物船を乗っ取ったという報道もありました。こうした背景などから、アメリカはフーシ派を「テロ組織」として認定しています。

Q. フーシ派の暴力行為とは?
A. 暴力によって現状の枠組みを変えることを目指しており、2021年1月~2022年6月の1年半だけでも、4,800名以上がフーシ派の攻撃によって犠牲になっています。私たちが活動するタイズ県やマアリブ県などでは民間人の犠牲も多数報告されています。

▲フーシ派の地雷/爆発による被害を受けた男性。


2. タイズ県での職業訓練開始
このような背景から、私たちはタイズ県の特別捕虜収容所にて、組織を抜け出したフーシ派の投降兵や収容期限のない捕虜に対して、生活物資の提供や本棚の設置、ケアカウンセリングや宗教再教育など包括的なリハビリテーション支援と社会復帰支援を行ってきました。

そうした中で、3月にはソーラーパネルの設置・管理のスキルを身に付けるための職業訓練を開始しました。イエメンでは内戦の影響で電力供給が不足しており、ソーラーパネルの設置・管理スキルは社会復帰後の雇用機会の獲得に繋がりやすいのです。すでに現地からは「将来に希望を持てる」という声が聞かれています。

▲ソーラーパネルの設置・管理スキルトレーニングの様子。

こうした若者1人1人への取り組みを実施する一方、フーシ派とイエメン暫定政府の捕虜交換交渉は幾度も破談し、停滞しています。そのため、収容期限がない捕虜については、解放および社会復帰の時期が不透明なのが現状です。今後も、現地政府への働きかけを実施するとともに、捕虜交換交渉が再開されたときに備え、タイズ県の特別捕虜収容所から多くの若者が平和の担い手となれる取り組みを継続してまいります。


3.マアリブ県でのリハビリ施設の建設開始
これまでマアリブ県では、特別捕虜収容所においてケアカウンセリング、生活物資や本の提供を通じた教育面での支援などを行ってきました。また、現地政府・軍の拠点があるため、それらのリハビリテーション支援を開始・運用するにあたって、政府や軍との交渉もしてきました。

そんな中、ようやく準備と合意が整い、特別捕虜収容所内でリハビリ施設の建設を開始することができました。職業訓練ホール、医務室、ケアカウンセリングルームが備わった包括的な施設です。本来、4月中に建設完了予定でしたが、イスラエルのガザ侵攻以降、フーシ派による武力行使が活発になっており、現地情勢が悪化していることから各交渉もストップしてしまい、大きく遅延した結果となりました。

一方で、現地では、早急な若者への精神面・身体面のケアが必要とされており、できるかぎりで既存のスペースを利用し、医師による定期診察をしています。今後も健康管理やケアカウンセリング、治療の提供も定期的に行う予定です。

▲建設予定のリハビリ施設の図面。

▲医師による定期診察。

現在はタイズ県・マアリブ県のフーシ派の捕虜を対象に取り組みを展開していますが、将来的にはイエメン国内における全ての捕虜に対してケアとリハビリを行う方針を実現し、釈放後の社会復帰において個々人の意志を尊重できるよう、今後も現地政府との交渉・調整に尽力してまいります。


4.元フーシ派捕虜・ナジの声
最後に、元フーシ派の捕虜で特別捕虜収容所に抑留されていたものの、現地政府との交渉・調整の結果釈放されたナジ(仮名)の声をお届けします。

「私は、特別捕虜収容所で過ごしていた間にアクセプト・インターナショナルが行ってくれたケアカウンセリングやイスラム教再教育、本や衛生用品、食事の提供など、多くのことに感謝しています」。

「特別捕虜収容所から釈放され、今はとても前向きな気持ちです。自分自身と子どもたちのために、新しい未来を創っていきたいです」。

▲インタビューに答えてくれたナジ(右)。左は現地スタッフのアムガット。

彼は裁縫のスキルを持っており、今後は、収容所における裁縫スキルトレーニングの先生として働くことができるよう、鋭意調整をしています。

今後も、ナジのように数多くの若者が平和の担い手となれるよう、イエメンの最前線から取り組みを続けてまいります。引き続き皆様からの温かなご支援をどうぞよろしくお願いいたします。



【読者の皆様へ】
ナジの声については、月1,500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」にはモザイクなしのインタビュー動画をお届けしております。

2024年5月現在、当法人は紛争解決に向けて歩む同志である「アクセプト・アンバサダー」200名募集キャンペーンを実施中です。この機会にぜひ、皆様とともに、日本や世界で取り残されている方々を受け入れ、本質的な問題解決に挑戦していくことができれば大変幸甚です。

▶ アンバサダー募集ページはこちら


その他の記事

憎しみの連鎖をほどくために、
今世界で、あなたが必要とされています。