[2025年6月]

今回は、イエメン事業部における社会復帰支援の進捗および、フーシ派に捕らわれていた人々への緊急人道支援の展望についてお届けします。末尾にはイエメン事業部担当者の丸田からの一言もございます。ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
1. マアリブ県における社会復帰支援の進捗
イエメンでは、反政府武装勢力であるフーシ派とイエメン政府軍の間における紛争が続いています。
私たちが活動するイエメンのタイズ県およびマアリブ県は、フーシ派の支配地域と隣接する、まさに紛争の最前線です。私たちは両県にある特別捕虜収容所にて、フーシ派の構成員だった若者たちを支援しています。これまでに生活物資の提供や職業訓練、ケアカウンセリング、宗教再教育、医療・心理面のケアなどを包括的に行ってきました。
なお、タイズ県の収容所が約150名を収容しているのに対し、今回進捗をお届けするマアリブ県の収容所は約700名と規模が大きいのが特徴です。タイズ県と同じく、マアリブ県もフーシ派とイエメン政府軍との紛争の前線にあるうえに軍の拠点となっていることから、捕虜の収容人数も多くなっています。
そんなマアリブ県の特別捕虜収容所では洋裁の職業訓練を行っています。イエメンでは、イスラム教の祝祭日や毎週金曜日の礼拝の時に伝統衣装を身に付ける習慣があるなど、洋裁の需要が見込まれます。社会復帰後の安定した収入源を確保し、持続的に平和な生活を送るための選択肢のひとつとして洋裁スキルの習得は有用です。
そして、洋裁の職業訓練を受けている若者の声が届きましたのでご紹介します。
「この機会を与えてくれたアクセプト・インターナショナルのプログラムと日本のすべての寄付者に心の底から感謝しています。なぜなら、この訓練を通して、紛争で直面した過去のトラウマを忘れることができるからです。釈放されたら何か新しいことができると感じていますし、未来に向かって進む自分を誇りにも思っています」。
※アンバサダーの皆さまには、若者の声をモザイク無しのインタビュー動画としてお届けしています。

また、現地の若者の中には教育を十分に受けることができず、読み書きができない人もいます。そのため、母国語であるアラビア語の本を配布して彼らが読み書きを学ぶことができる機会を提供しています。
加えて宗教再教育の取り組みとして、金曜礼拝の時間にマイクとスピーカーを通じて、イスラム教の指導者による説教を各居房に届ける仕組みも導入しました。限られた空間の中でも、学び・礼拝の時間をつくれるよう工夫を重ねています。
ちなみに、アラビア語の本を配布した時に、果物の挿絵を見たある若者が、それを指さして「果物を食べたい」と話しかけてきた出来事がありました。収容所内の食事で果物が出ることはほとんどなく、若者たちは十分なビタミンなどの栄養素を摂取できていないため、この出来事をきっかけに、ちょうど旬を迎えていたマンゴーやバナナを配布することにしました。マンゴーは1 kgあたり1ドルと、日本では考えられないくらいの格安です。

▲アラビア語の本の配布

▲一番右の白い服の男性がイスラム教の指導者。
マイクを通じて、各居房に礼拝の説教を放送しています。
そして先日、収容所内に新たに「メッセージボード」を設置しました。彼らは外の世界とは隔離されており、社会との繋がりを感じる機会がほとんどありません。こうした状況は彼らの不安を募らせるばかりです。そのため、彼らが社会と繋がりを持ち、前向きに社会復帰に向けて歩んでいけるようさまざまな方からメッセージを募っています。
7月13日までアンバサダーの皆様から募集していたメッセージは、これから形式を整えた上、ボードに掲示していく予定です。ご協力いただきありがとうございました!

▲今回設置したメッセージボード。

▲メッセージボードを設置している様子。
右側に写っているのは今回新たに設置した本棚です。
2. フーシ派に拘束されていた人々への支援の展望
こうしたフーシ派の構成員だった若者への支援に加え、フーシ派に拘束され、拷問を受けた方々が抱える課題についても調査を重ねてきました。対象はイエメン政府軍の元兵士に加えて、一般市民も含まれます。
実際に現地でお話を伺う中で、次のような証言が寄せられました。
「本当に様々な拷問がありました。タバコを体に押し付けられる、長時間逆さにつるされるなどの身体的なものだけでなく、身動きの取れないほど狭い真っ暗な部屋に自白するまで閉じ込められた人もいます。皆、心身に非常に大きなダメージを受けています」
「長時間暗闇の中に閉じ込められた後、ある日突然外に出されて視力を失いました」
「今は紛争による経済状況の悪化に加えて、為替レートの下落などの影響で、物価も高騰し、以前にもまして生活が苦しくなっている状況です」
こうした声を受け、現地で支援を行う団体とも協議を重ねた結果、医療・心理面のケア、生活を維持していくための経済的な支援などを行っていくことを検討しています。
今後は、フーシ派の構成員だった若者だけでなく、イエメン政府軍の元兵士やフーシ派との紛争で被害を受けた一般市民など、憎しみの連鎖に巻き込まれてきた多くの人々が社会で平和な安定した暮らしを取り戻していけるよう、様々な支援を展開してまいります。引き続き、温かなご支援のほどよろしくお願い申し上げます。
3. イエメン事業部担当者・丸田よりコメント
いつも温かなご支援をいただき、本当にありがとうございます。イエメンでは10年以上にわたるフーシ派との紛争により、市民の生活は非常に苦しい状況が現在まで続いています。
国際機関の資金不足などにより、今後さらなる食料不安や医療・保健状況の悪化が懸念されている一方、緊迫する中東情勢の中で、イエメンはどうしても見過ごされてしまうことが多く、十分な支援が届いていないのが現状です。
そんな中でも必要な緊急支援を行いながら、人々の中長期的な生活の安定、そして元フーシ派の若者だけでなく、紛争の被害を受けた地域コミュニティの人々を交えた「憎しみの連鎖をほどいていく」取り組みを、これからも現地スタッフと共にひとつずつ実現していきたいと思います。温かなご声援をお寄せいただけますと幸いです。

▲左がイエメン事業部担当の丸田。
【読者の皆様へ】
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暴力に絡め取られた若者を社会一体となって救い出し、新たな道を歩むことを力強く支え、テロや紛争の解決に繋げるために、この機会にアンバサダーとしてご参加いただけたら幸いです。