活動報告
【イエメン事業部】刑務所での取り組みの進捗と捕虜交換の見通し

私たちは10年以上にわたって紛争が続くイエメンのタイズ県にある中央刑務所にて、武装勢力フーシ派の構成員が脱過激化し、社会復帰するための取り組みを行なっています。

タイズ中央刑務所での脱過激化・社会復帰支援の進捗
2021年4月から活動を開始したイエメンでは、タイズ県で「子どもを含むフーシ派からの投降兵への社会復帰に向けた取り組み」を2022年9月まで実施してきました。元フーシ派戦闘員の子ども・若者たち100名を受け入れ、その全員がプログラムを修了して社会に復帰しています。ソマリアでの取り組みと同様に、善き第三者として彼らの過去や思いを受け止め、主にケアカウンセリングや職業訓練、基礎教育や宗教再教育ゼミ、保護者への働きかけやフォローアップなどを実施することで、彼らが若者として生き直していくことを支えてきました。

▲フーシ派の投降兵に提供しているソーラーパネル設置のスキルトレーニングの様子

さらに、2022年10月からは、自発的に組織を抜け出した投降兵、逮捕されて収容されている受刑者、刑期が存在しない抑留者(捕虜)を主な対象として活動を実施しています。2022年9月まで実施してきた取り組みと比べて極めてセンシティブであり、セキュリティが厳しい刑務所であるために写真撮影が許されたのも最近の出来事です。

対象者は極めて劣悪な環境下で不満を募らせているため、まずは施設の修繕やプログラムに必要な物品提供を行い、現在はケアカウンセリング宗教再教育プログラムを実施しています。まだまだスタートして間もなく引き続き様々な障壁はありますが、進捗は順調です。

宗教再教育で扱うテーマは、異教徒との向き合い方、忍耐、罪と赦し、他者への奉仕、断食の意味など、多岐に渡ります。まず導入として、イスラーム教の先生が聖典コーランに書かれた章句を簡単に説明し、その後、その解釈についてみんなで考えていくゼミを行います。

これにより、必ずしも解釈は一つではなく多様な見解があることを理解したり、自分に落とし込んで考えたりすることで、批判的思考を訓練する場にしています。

テロ組織が彼らに強制した思想を真正面から否定し、それを無理やり「矯正」するというアプローチが取られることの多かった現実がありますが、それでは反発を招いてしまいます。だからこそ私たちは、彼らを呪縛から解き、理解を相対化していくことを大切にしています。

▲当法人現地スタッフ(左)、心理カウンセラー(右)、フーシ派の受刑者(手前)

▲フーシ派の受刑者に向けた宗教再教育プログラムの様子

捕虜交換の見通し
私たちがソマリアで対象としているテロ組織アル・シャバーブとソマリア政府との間には直接の対話が成立していませんが、イエメンのフーシ派に関しては、暫定政府との停戦合意が不定期で結ばれるなど、少なくとも対話の場を構築することができています。

その対話の中で、イエメン政府が捕えているフーシ派の捕虜の解放と、フーシ派に捕えられている政府側の捕虜の解放、およびその交換の枠組みが存在しており、それを効果的に機能させるための取り組みも実施しています。

単に捕虜交換をするだけでは再びフーシ派の支配領域に戻って戦闘員に逆戻りしてしまうため、リハビリをした上で解放し、その後の人生についてもフーシ派の支配領域に戻らない道を選ぶことができるようにするなど、様々なアレンジが求められています。

そうした交渉の現場には当法人の代表・永井も参画しており、例えば先日は、スイスのベルン郊外で開催されたイエメン政府とフーシ派による捕虜交換交渉で、合計887人を釈放・交換することが決定しました。

ただし、私たちがプログラムを提供しているタイズ刑務所の捕虜148名はここには含まれていないため、引き続き交渉中です。そんな中でも、担当官らがイエメンに向けて帰国するタイミングで空港まで赴き、私たちが実施しているプログラムを他のフーシ派の捕虜にも提供していくことについて最終的な口頭の合意を得ることもできました。

▲フーシ派の交渉担当(左)、イエメン政府の捕虜交換担当官(中央)、代表・永井(右)

さらに直近では、中国の仲介によるサウジアラビアとイランの関係正常化を受け、イランが支援しているとされるフーシ派が再び停戦に合意する機運も高まっています。こうした好機の中で、若者が武器ではなく希望を持てるように、様々な可能性を探っていく所存です。

混迷を極める世界情勢ではありますが、希望の光は確かに存在していると実感する日々です。問題解決に向けて引き続き尽力してまいりますので、今後とも皆様の温かなご支援・ご協力を、何卒よろしくお願いいたします。



政府の意向に左右されない私たち独自の活動は、毎月1500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご支援があってこそ成り立っています。

皆様とともに、この日本からテロ・紛争の解決に挑戦していくことができれば大変幸甚です。

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