[2024年12月]

インドネシアにて外務省からの委託のもと展開しているテロリスト受刑者へのリハビリテーション・社会復帰支援についてご報告いたします。
1. リハビリテーション・社会復帰支援の背景
インドネシアでは、いわゆるテロリスト受刑者へのリハビリテーション・社会復帰支援が不十分なため、彼らが地域社会に戻ることができず、釈放後に再びテロに加担する問題があります。
こうした問題に対応するため、これまで私たちは、受刑者へのケアカウンセリングや、テロに関与した受刑者を支援する刑務官・保護観察官を対象に、対話スキルの向上を目的とした研修などを実施してきました。
そして昨年からは外務省より委託を受け、テロリスト受刑者を収容する最高セキュリティ刑務所および保護観察所において、彼らへのリハビリテーション支援の強化や元テロリスト受刑者の社会復帰支援の取り組みを本格的に開始しました。
本取り組みにより、出所後の受刑者が再びテロに加担することなく、円滑に社会へ復帰できるよう支援し、インドネシアにおける持続的な平和に貢献していくことを目指しています。
今回は、リハビリテーション・社会復帰支援の中でも重要な幻滅対策セッションについてお伝えします。
2. 幻滅対策セッションについて
地域社会の人々がいわゆる元テロリストへ抱くイメージは厳しく、仮に彼らが出所したとしても、差別を受けたり孤立したりすることがあり、結果として社会に幻滅してしまうリスクが高まります。また、新たな仕事を見つけづらかったり、自分でビジネスを始めたくても資本が少なかったりすることから、収入源は限られ、経済的に困窮してしまい家族を養えないこともあります。
その結果、再び社会に対して憎しみを抱くようになったり、収入源を確保するためにテロ組織に加入してしまったりすることがあるのです。
そうした課題に対応すべく、私たちはヌサカンバンガン島にある刑務所にて、テロ受刑者に対する幻滅対策セッションを行いました。本セッションでは、元テロリストたちが社会復帰後に直面する可能性のある困難について話し合い、それにどう対応するかを共に考える時間をつくりました。
こうした取り組みは、ソマリアやイエメンをはじめとした他の事業地においても同様に実施しており、地に足のついた視座を創り上げる取り組みとして、これまでも評価されてきました。
以下では、各パートで実施した具体的な取り組みとその成果について詳しくご紹介いたします。

▲幻滅対策セッションの様子。
<出所後の人生計画および収入計画の作成>
各年代における人生の目標を立て、その目標を実現するためにはどれくらい資金が必要かを想定した具体的な収入計画を策定しました。
計画を策定する中では「起業して家族を支えるために、出所後にまずファイナンスの知識を学ぶ」や「薬草のお店を起業するために服役中から本を読んで薬草の知識をつける」といった具体的な目標からアクションまでを決めることができ、彼らの社会復帰後の収入創出に向けて有意義なパートになりました。
<「善きイスラム教徒」についてのディスカッション>
社会における「善きイスラム教徒像」を定義し、そのためにどのような行動をするかを考えました。
ディスカッションにおいては「地域住民とのコミュニケーションの取り方を学び、彼らと礼儀正しく、積極的に交流する」や「地域の清掃員とともに環境美化活動に取り組む」、「困っている人々に食べ物を分け与える」、「刑務所内にあるモスク(イスラム教の礼拝所)でイスラム教に関する知識を増やす」といった具体的なアクションが挙がりました。
そうした中で、参加者の中では「善きイスラム教徒とは、友好的で、誰にでも気を配り、他者との違いに寛容で、社会と世界に平和を広める者」と結論づけられました。特に「他者との違いに寛容」については、当法人の名称にある「アクセプト」と非常に通ずるものがあり、立場や意見の異なる人であってもまずは受け入れることを大切にしている私たちとしても感慨深いパートでした。
<再度、テロ組織に勧誘されたらどうするか?>
再び、いわゆるテロ組織に勧誘された場合にどのように対応すべきか、についても意見交換が行われました。
意見交換する中で、参加者たちは、コーラン(イスラム教の聖典)の正しい解釈を学び直すことでテロ組織の主張を否定する力を養う必要性を確認しました。また、テロ組織がもたらす被害を改めて認識し、そのうえで勧誘を断る重要性を確認するとともに、勧誘者に対する行動にも議論が発展しました。具体的な行動としては、「刑務所での生活の大変さを伝えつつ、コーランの教えに立ち返り、武器を置くように諭すこと」が重要であるという気づきを得てもらうことができました。
また、「万が一の場合には現地当局のどの組織に通報すべきか」を含めたより具体的な対応方法についても議論が交わされました。
各パートの完了後には、対象者から次のような声もいただいています。
「アクセプトとの出会いが、ここにいる全員の将来にとって非常に有益になると感じています」。
「今回の取り組みによって、社会に対する幻滅をうまくコントロールし、今後の人生設計について、より真剣に考えることができるようになったと思います。出所した後も続けてほしいです」。
今回の幻滅対策セッションを通じて、参加者たちはテロ組織に再加入するのではなく、「善きイスラム教徒」として、そして「平和の担い手」としてどのように生きていくべきかを認識し、その理解をさらに深めることができたのではないかと感じています。今後もさまざまな取り組みを通して、受刑者たちが平和な道を歩めるように支援を続けてまいります。

▲実際にセッションで使ったボード。
全員で付箋を貼るとともに、各付箋の関係性も整理しました。
3. 今後の展望
今後は、いわゆる元テロリスト受刑者が社会復帰後も平和の担い手として生きていけるように、幻滅対策セッションに加え、ケアカウンセリングや職業訓練といったプログラムの強化も図り、リハビリテーションおよび社会復帰支援をより一層推進してまいります。
これからも、誰もが平和の担い手となり、共に憎しみの連鎖をほどいていけるよう、インドネシアにおいても全力で取り組んでまいります。引き続き温かなご支援をよろしくお願いいたします。
【関連リンク】
インドネシア共和国の矯正総局サイト
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