[2024年9月]
私たちは、コロンビア革命軍(FARC)をはじめとする武装組織や政府軍などの内戦が50年以上続いた後、2016年に和平合意が締結されたコロンビアにて活動を開始しました。
和平合意が結ばれたものの、FARCの元構成員の一部は、いまだに地域社会から疎外され続け、地域社会との和解も進んでいません。そこで、私たちは、特に脆弱な立場にあるFARCの元戦闘員が暮らす社会復帰キャンプやその周辺地域で、若者をはじめとする元戦闘員の社会復帰を支援するとともに、地域の人々との相互理解を促す活動を行っています。
今回は、その取り組みの背景や具体的な実施内容、そして今後の展望についてお伝えします。
1. コロンビア内戦と元戦闘員の社会復帰の課題
コロンビア共和国では、深刻な貧富の差や脆弱な人々の政治参加の制限などが原因で多くの左翼武装組織が立ち上げられました。こうした組織と、政府軍や警察と繋がりがあるとされる右翼武装組織などの間で50年以上にわたる内戦が続きました。最大の左翼組織であるコロンビア革命軍(FARC)は、最盛期には20,000人の戦闘員がいたとされ、政府や政府軍などに対して暗殺、爆弾攻撃、ハイジャック、誘拐、強奪などの攻撃を行ってきました。
そして2016年、内戦による多大な損失と国際的な支援などを背景に、政府とFARCは和平合意を結び、FARCは合法政党となりました。元戦闘員たちは武装解除を完了し、社会復帰プロセスを進めています。
しかし、今も多くの元戦闘員が社会復帰の過程で様々な問題を抱えています。彼らは政府が運営する社会復帰キャンプで生活していますが、地域社会とのつながりが乏しく、経済的にも不安定な状態に置かれています。また、和平合意の一部が政府によって実行されない、元戦闘員に対する否定的な意見が多い、暗殺事件が続くなど、多くの困難に直面しています。
こうした状況は、社会の格差を広げ、若者を暴力に引き込むリスクを高めています。実際に一部の元戦闘員は、再び武装グループを作り、暴力行為や麻薬取引などの犯罪行為に関与しているのが現状です。
2. 私たちの現地での活動
そうした課題に対応すべく、私たちは、コロンビア南部カケタ県の社会復帰キャンプを拠点に、FARCの元戦闘員の社会復帰支援を開始しました。カケタ県は、FARCの元戦闘員が多く居住しており、経済状況や格差が深刻な地域です。
当地域において、私たちは多目的職業訓練センターを建設し、ケアカウンセリングや職業訓練、ライフスキルの研修、そして地域社会との対話セッションなどを実施していきます。元戦闘員だけでなく、地域の人々も利用できる環境を創り、相互理解を深められるようにすることが狙いです。
元戦闘員に対するケアカウンセリングでは、紛争中のトラウマや、社会復帰の過程で経験した差別、元戦闘員が暗殺される事件への不安に対して、適切な心理面のケアを行います。また、彼らの過去の経緯や、地域社会の中で生活していく現在と未来への想いを受け止めながら、社会復帰に向けてポジティブになれるよう対話を続けていきます。
また、多くの元戦闘員が政府からの月々の手当で生計を立てている中、国際機関などから支援を受けて得た職業スキルやライフスキルを十分に活用できず、就職や起業、進学に至らないといった課題を抱えています。そこで、長期的な経済・社会的自立を目指して職業訓練やビジネスマネジメント研修を行っていきます。
▲社会復帰キャンプのリーダーたちへのヒアリングの様子
併せて、ライフスキルトレーニングとして、今後の生活目標の設定や、地域の人々との関係性構築、また、異なる立場や思想を持つ人々を受け入れること、あるいはジェンダーに基づく暴力を防ぐこと、そしてコロンビアの平和を目指すうえで元戦闘員の重要な役割や可能性などについて、学ぶ機会を提供していきます。こうしたプログラムでは、元戦闘員をサポートする政府職員も巻き込み、彼らが主体的にプログラムを進めていくための能力強化研修も実施しています。
さらに、元戦闘員と地域社会の人々との相互理解や信頼関係構築を進めていくために、FARCの元戦闘員や国内避難民を含む地域コミュニティの人々、政府機関、民間企業などをつなぎ、対話プログラムを実施していきます。これにより、長期的な和解に向けた基盤を創っていくことが狙いです。
こうした支援を進めるうえでは、現地の元戦闘員・構成員からも意見を伺っています。ここでは2名の意見をご紹介します。
元戦闘員・構成員の声:
「私が幼少期に住んでいた地域はFARCに支配されていました。とても貧しい環境で育ち、8歳の時にFARCへ参加せざるを得ませんでした。FARCでは主にメンバーの健康管理を担当していました。現在は、FARCの元戦闘員だけでなく、元構成員も差別に苦しんでおり、困難な状況です。元構成員と地域コミュニティの間での対話の機会が必要だと感じています」。
「FARCでは、軍事基地で働いていました。今は家族のためにも平和に暮らしたいと思っていますが、差別の存在や経済的な問題があり、平穏に生活するのは難しい状況です。個人的には、観光ガイドになるためのトレーニングの機会があれば嬉しいです」。
彼らが語る通り、FARCの元構成員は差別や経済的な問題などさまざまな課題を抱えています。また、地域社会においても誘拐・ドラッグなどといった問題があります。それらの問題を解決し、負の連鎖をほどいていくうえでは、元構成員自身が平和の担い手として社会に復帰し、持続可能な平和に向けた新たな循環を創っていくことが必要です。元構成員ならではの経験があるからこそ、彼らが平和に向けて必要なことを社会に伝え、実現していくことができるのです。
そして、その実現においては、私たちのこれまでの経験が大いに活かされると信じています。私たちの主な活動地であるソマリアやイエメンは現在も紛争中であり、コロンビアは和平合意が締結された後という違いはありますが、個人や地域社会が抱える問題には多くの共通点があります。ソマリアやイエメンなどで培ってきた経験をもとに、コロンビアでの和平プロセスを定着させ、持続可能な平和な社会の実現に向けて取り組んでまいります。
3. 今後の展望 -国際的な平和の実現へ-
こうした現地での取り組みと並行して、私たちは国際会議などの場において、世界中の武装組織にいる若者が憎しみの連鎖から抜け出し、平和の担い手となるための指針になる国際規範の制定へ向けた取り組みも行っています。
国際規範の制定に向けた取り組みの主要メンバーには、FARCの元戦闘員であるアンジェリカも参加しています。彼女は、13歳の時にFARCに強制的に加入させられ、22歳まで戦闘員として活動していました。
▲カケタ県の社会復帰キャンプでのアンジェリカとその娘
彼女はこれまでに当法人が開催してきた国際シンポジウムの場で、自身のユニークな経験をもとにしたコメントをし、暴力に絡め取られた若者にとって必要なことを発信してきました。今後も、国際的な政策の現場においても、元戦闘員ならではの経験を発信してもらい、国際社会の理解を深めることで、新たな国際規範の制定に繋げていけたらと考えております。
▲オンラインの国際シンポジウムで自身の経験を発信するアンジェリカ(右上)。
今回お伝えしたコロンビア南部カケタ県のような「最前線」、および国際規範制定に向けた「最上流」の双方での取り組みを通じて、全世界的に憎しみや負の連鎖をほどき、平和な世界を日本発で実現できるよう、これからも尽力してまいります。今後とも温かなご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
※コロンビアでの事業はまだ開始したばかりのため、さらなる活動の進捗があり次第、皆さまにご報告いたします。
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