[2025年4月]

今回はコロンビア事業部から、元コロンビア革命軍(FARC)の女性構成員や紛争の被害者を対象とした職業訓練および心理セッションの取り組みを中心にお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。
1.コロンビアにおける活動の背景
コロンビアといえば、コーヒーやサッカーを思い浮かべる方も多いかもしれません。経済面では名目GDPで世界38位(1人当たりの名目GDPでは91位)に位置する上位中所得国とされており、2020年にはOECDにも加盟しました。
その一方で、実は「世界最多の国内避難民が存在する国」とも言われています。
深刻な貧富の差や脆弱な人々の政治参加の制限などを背景に、コロンビア革命軍(FARC)をはじめとする武装組織や政府軍などによる内戦が50年以上続いた後、2016年に和平合意が締結されました。しかし、元FARC構成員の一部は、いまだに地域社会から疎外され続け、地域社会との和解も進んでいません。

▲現地の家にはコロンビア革命軍の壁絵などが今も残ります。
和平合意に署名し、社会再統合プロセスに参加している元FARC構成員の一部は、政府が運営する社会復帰キャンプで生活しています。しかし、地域社会とのつながりが乏しく、経済的にも不安定な状態に置かれています。また、和平合意の一部が政府によって実行されなかったり、元戦闘員に対する否定的な意見や暗殺事件が続いたりなど、多くの困難に直面しています。
さらに、紛争の犠牲者に対する支援の担い手は多く存在する一方で、元FARC構成員に対する支援の担い手は極めて限られており、彼らの社会復帰が進まない要因となっています。こうした中、武装勢力が元構成員の居住地周辺で勢力を拡大し、彼らや家族の命が脅かされるケースも発生しており、強制移住を繰り返さざるを得ないことも少なくありません。
こうした状況は社会の分断や格差をさらに広げ、若者を暴力に引き込むリスクを高めています。実際に一部の元戦闘員は再び武装グループを作り、暴力や麻薬取引などの犯罪行為に関与しているのが現状です。結果として地域の治安は悪化し、憎しみの連鎖が続いてしまっています。
2.コロンビアでの活動内容
そうしたコロンビアの中でも、特に元FARC構成員が多く居住するカケタ県において私たちは活動しています。具体的には、日本外務省からの委託のもと、社会復帰プログラムの策定・実施およびプログラムを実施する多目的施設の建設、政府職員への研修、ライフスキルの習得を目的とした職業訓練などを行っています。

▲社会復帰プログラム提供のための多目的施設の開所式。と当法人職員・鈴木(左から2番目)
こうした取り組みの中から今回は、元FARC構成員および紛争の被害を受けた女性を対象に、現地自治体と連携して2カ月間にわたり実施した職業訓練や心のケアの詳細をご紹介します。
<職業訓練および心のケア>
私たちの主な活動地であるソマリアやイエメンとは異なり、コロンビアでは和平合意が結ばれています。しかし、その合意内容は十分に果たされておらず、元構成員が働き方や職業スキルを身につける機会は限られています。
そのため私たちは、彼らが地域社会にも貢献できるような事業として、魚の養殖、酪農、観光案内に関する職業訓練を男女問わず実施しています。地域のニーズに根ざしたスキルを習得することで、彼らが地域社会との交流を図ることも狙いとしています。
また、コロンビアはソマリアやイエメンとは異なり、女性も戦闘員として戦っていたケースが多いことが特徴です。
元FARC構成員の女性も紛争の犠牲者である女性も、現在では家事を一手に担うことが多く、職業スキルの獲得や心のケアが後回しにされがちです。紛争を通じて心に深い傷やトラウマを負った方、性暴力の被害を受けた経験を持つ方もおり、心のケアに対するニーズは高い状況にあります。
そうした背景から、元FARC構成員と紛争の犠牲者を含む女性を対象に、縫製研修とカウンセリングを通じた心のケアを現地の自治体と2か月かけて実施しました。
縫製研修においてはミシンなどを使って縫製技術を学びながら、就労に必要なスキルを身に付けていきました。現地では特に女性たちが生計を立てる手段として有効なものとされています。

▲縫製研修の様子
心のケアにおいては「私の幸福を育む」と題した心理セッションを開催しました。
深呼吸、そしてゆったりとした動きで「自分の身体に耳を傾ける」ことから始め、次に「セルフケアとは何か」を考える時間を設けました。多くの参加者が「家庭や家事の責任を優先するあまり、自分の健康が後回しになっていることに気づいた」と口々に語りました。休息をとること、誰かと話すこと、グループ活動に参加することなど、小さな行動が大切なセルフケアの一つだと再認識する機会となりました。
後半には、絵を描くアクティビティを通じて、自分の生活にとって大切なものや価値観を見つめなおす時間も設けられました。
なお、本セッションは、元FARC構成員と紛争の被害者がともに参加する形で実施し、互いの背景や思いを知る機会とすることも目的のひとつでした。セッション中には感情が高ぶる参加者もいましたが、安心して話せる環境の中、自らの感情と向き合う時間を確保することで、最終的には彼女たち自身が感情をコントロールする姿が見られました。

▲心理セッションの様子

▲セッション中に描いた絵。
「根」は自分に力と支えを与えてくれる人や価値観を表すなど、
それぞれの絵に意味を持たせることで大切なものを再認識する機会としました。
実際に職業訓練や心理セッションに参加した方の声を聞くことができましたので、ご紹介します。
「これまでセルフケアの方法を習ったことがなかった。これからはもっとカウンセリングを受けたい」
「国際NGOがこの地域で活動するところは見たことがないので画期的だった。今後も支援を続けてほしい」
3.今後の展望
元FARC構成員も紛争の被害を受けた方も、心に深い傷やトラウマを負っている方は少なくありません。そのため今後は、1人1人の状況やニーズに寄り添った、より個別的な心のケアも検討・実施する予定です。
また、この度新たに建設した社会復帰プログラム提供のための多目的施設においては、元FARC構成員が再び武器を手にするのではなく地域社会の中で平和の担い手として暮らしていけるよう、包括的な支援を提供してまいります。同時に、地域社会との相互理解を促進するための対話の機会も創っていけたらと考えています。
4.さいごに ~現地職員よりひとこと~
初めまして、コロンビア事業を担当している鈴木です。
コロンビア事業は、事前調査で代表の永井、そして職員の高橋や伊藤が現地の関係者との関係を構築していたおかげで、私が入職した時にスムーズに活動がスタートできました。
対象としている事業地は政府機関以外の支援者がほとんどいない社会復帰キャンプなので、プロジェクト開始時から元FARC構成員一人ひとりの期待が大きく、他の支援を呼び込むためにもこのプロジェクトを成功させたいという彼らの強い思いが伝わってきました。
とはいえ新参者なので、彼らとのコミュニケーションの難しい時期もあったのですが、現地スタッフ2名(デイビーとセバスティアン)が3日に1回は元FARC構成員やコミュニティとの対面のミーティングを実施する形で、ニーズに合うよう職業訓練やケアカウンセリングを組み合わせ、彼らの期待に少しでも応えられるように伴走してきました。
5月に多目的施設が完成しましたが、これはコミュニティとして地域開発・和解を進めていくプロセスの初めの一歩という状況です。今後もさらなる資金調達を進めながら、より効果的かつアクセプトらしい支援ができるよう、日本および現地スタッフと協働で頑張りますので、引き続き皆様のご支援とご協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

▲当法人職員・鈴木(左から2番目)と駐コロンビア日本大使・髙杉様(右から2番目)
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