活動内容
イエメン

すべての若者が
武器ではなく
希望を持てるように

非常に複雑な要素が絡まった紛争とされるイエメン内戦の中で、多くの若者や子供たちが兵士として動員されています。私たちは彼らが武器を置いて希望を持ち直すことができるように、現地政府と協働のもと、武装勢力からの投降の受け入れと促進を行うとともに、脱過激化と社会復帰に向けたリハビリテーションを行っています。

10年以上にわたる激しい紛争により、イエメン共和国は甚大な被害を被っています。特に2014年に内戦が勃発してからは、イランが武器や無人機などの兵器を支援しているとされるアンサール・アッラー(いわゆるフーシ派)の蜂起により、事態はさらに泥沼化しています。さらに、フーシ派とサウジアラビアの支援する暫定政府という2つの勢力以外にも、UAEが支援する武装勢力や、アラビア半島のアル・カーイダ(AQAP)及びイスラーム国(IS)などといったいわゆるテロ組織に加え、国内の複雑な部族制度が事態をより深刻なものにしていると考えられています。その結果、2015年以降430万人以上が国内避難民となり、2023年には全人口の半分以上である1,700 万人が食糧危機に陥ると推定されるなど、世界最悪の人道危機とも呼ばれる状態に長期にわたって直面しています。

しかし、より懸念されるのは、それらの危機を生み出している紛争当事者に関わる問題です。一例として、武装勢力や暴力的過激主義組織の支配地域にいる若者や子供たちが勧誘される問題が挙げられます。実際、彼らが強制的にテロ行為に加担させられたり、家族の経済的負担を軽減するためにやむなく組織に参加したりするケースが後を断ちません。

また、若い世代が過激化し暴力に訴えることで、地域コミュニティの間に亀裂が生じ、すでに紛争によって苦しめられている同国において更なる憎しみの連鎖が発生しています。そのため、仮に若者や子供たちが武装勢力や暴力的過激主義組織から脱退したとしても、社会に復帰することは難しく、再過激化したり、再び組織に戻ったりするリスクが極めて高い状況が続いています。このように喫緊のニーズがあるにもかかわらずさまざまな要因から十分な取り組みがなされていないことを踏まえ、私たちはソマリアなどでの経験を生かし、イエメンにおいても事業を展開しています。

イエメンにおける取り組み

DRRプロジェクト

2021年4月より南西部タイズ県を拠点に、脱過激化・社会との接点構築・社会復帰(DRR)プロジェクトを実施しています。タイズ県は、武装勢力やいわゆるテロ組織からの投降兵や帰還兵が帰還する地域として重要であることから、活動地域として選定されました。本プロジェクトでは、若者や子供たちを含む、フーシ派からの投降兵や帰還兵に対して、包括的な支援を展開しています。対象となる若者や子供たちの能力向上を実現することで、地域社会の経済力向上や、地域社会のニーズ充足、地域の安定化等に貢献しています。

2022年10月からはさらに活動を広げ、イエメン南西部タイズ県の中央刑務所内の戦争捕虜特別収容所に収容されている、フーシ派の構成員の捕虜に対して、脱過激化・社会復帰の取り組みを開始しました。イエメンでは対立するフーシ派とイエメン暫定政府の間で、フーシ派側の捕虜と、フーシ派に捕らえられている政府側の捕虜を交換する枠組みが機能していますが、ただ交換をするだけでは再びフーシ派の支配領域に戻って戦闘員に逆戻りしてしまうリスクがあります。それを防止するため、捕虜たちに脱過激化、及び社会復帰に向けたリハビリテーションを実施した上で解放することで、その後の人生を一人一人が選ぶことができるようにすることを目指しています。

また、私たちはフーシ派に捕らえられている政府側の捕虜を交換する「捕虜交換」の交渉現場に参画しており、中部のマアリブ県においても同様の取り組みを展開し始めています。イエメンの和平に向け、若者が武器ではなく希望を持って地域社会で前向きに生きていけるよう、これからも活動を続けていきます。具体的には以下の取り組みを行なっています。

①ケアカウンセリング

対象となる若者や子供たちの抱えている問題を受け止め、平和的な手段を用いてそれを解決するために彼らが何をすべきか共に考えることで、彼らの人生における新たな目標を打ち立てることをサポートしています。ケアカウンセリングは一人一人に対して何度も実施することで、信頼関係を築いていきます。

②職業訓練・ライフスキルトレーニング

若者や子供たちに、将来の雇用に必要なスキルや基礎教育を週4回提供しています。トレーニングの種類は5つあり、自由に選ぶことができます。最も人気のある太陽光発電設備の設置とその管理をはじめとして、自動車やバイクのメンテナンス、溶接、装飾と彫刻、英語教育があります。また、地域社会でどのように生きていくのか、獲得したスキルを実生活でどのように生かすかなどを考えるライフスキルトレーニングも行っています。

③社会との和解セッション

月に1度、地域のリーダーと若者や子供たちを招き、相互理解を深めるための対話セッションを開催しています。

④幻滅対策セッション

対象となる若者や子供たちが期待通りにいかない現実に直面してしまったとき、再過激化のリスクが高まります。そのため、彼らに厳しい現実を克服できるような心構えを事前に持ってもらうことが必要です。釈放後に起こりうる障害について話し合うとともに、その問題に対する解決策を共に模索しています。本セッションは、1人当たり最低3回行っています。

⑤イスラーム教再教育

イスラーム教の講師とともに、聖典に基づいた和解、罪、許し、平和などのテーマを学ぶだけでなく、それについて共に議論したり考えたりする講義を、週に1〜2回行っています。

⑥長期フォローアップ・モニタリング

プログラム終了に際して、彼らの身元引受人に連絡をとり、適切な関係を築くとともに、その後も状況に応じて長期的なサポートを行っています。

⑦脱退支援活動

武装勢力やいわゆるテロ組織の構成員の投降や離脱を促進するとともに、地域社会の過激主義思想に対する理解と認識の向上に向けて、様々な活動を行っています。例として、武装勢力やいわゆるテロ組織の構成員の家族への働きかけ、地域社会での平和構築に向けた啓発活動、地方政府に対して平和構築や暴力的過激主義へのアプローチの呼びかけ等があります。

⑧ベーシックヒューマンニーズに対応する物資提供

戦争捕虜特別収容所内の劣悪な衛生環境を改善するため、石鹸やシャンプー、トイレクリーナー、歯ブラシ、電気シェーバー等を調達し、配布を行なっています。また、捕虜たちは外出が許可されていないことから、収容所内に本棚を設置し、居房内への持ち込んで読むことができるよう調整を行いました。

⑨収容所の改善・改良支援

受刑者に向けて取り組みを行うだけではなく、戦争捕虜特別収容所の施設自体の改善・改良支援も実施しています。これまでに居房の増築などの改修を行いました。劣悪な環境を改善することで、対象者の不満や憎悪を柔らげる狙いがあります。

武器を置いて投降することはとても怖かった。
けれど今は、その選択は正しかったと思っているんだ。

— いわゆるテロ組織アル・フーシ / アデル

テロと紛争のない世界を実現するために、
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