~現地の若者の歩みと現在の想い~
ソマリア事業部では、いわゆるテロ組織アル・シャバーブからの投降促進に加え、投降兵・逮捕者が脱過激化し、社会復帰するための取り組みを行っています。また、ソマリア政府と共同で、一般社会を巻き込み、社会全体の平和実現を考えることを目的とした対話フォーラムなどを開催してきました。
今回は、当法人のソマリア現地スタッフであり、元海賊のアハメドに協力を仰ぎ、私たちが中部ソマリアのリハビリセンターで支援している対象者であるファイサル(仮名)へインタビューを実施してもらいました。ファイサルの趣味から、リハビリプログラムを通じて変わったと感じること、さらには彼の考える憎しみの連鎖をほどくために必要なことなど様々なテーマで語っていただきました。
※リハビリセンター:当法人が運用している施設。基礎教育、イスラーム教再教育ゼミ、対話によるケアカウンセリング、職業訓練などの包括的なプログラムを提供し、支援対象者が自ら考え、平和の担い手になることを目指している。
【ファイサルへのインタビュー】
1. ファイサルより自己紹介
アハメド:今回はインタビューへの協力をありがとう。早速だけど、読者の皆さんに向けて自己紹介をしてくれるかい?
ファイサル:
読者の皆さん、こんにちは。ファイサルと言います。南西ソマリア出身です。今回はよろしくお願いします。
アハメド:
ファイサル、今日はよろしく。まずは、カジュアルなことから聞かせて。趣味や自分の国の好きなところは何だい?
ファイサル:
趣味はサッカーやランニングなどのスポーツだよ。
自分の国の好きなところは、食べ物だったら、はちみつ、バター、そしてマンゴーやバナナ、スイカなどのソマリアで良く取れる果物、またラクダの乳などの新鮮なものが好きだね。もちろんソマリアの文化や伝統もいいね。とくに、伝統的な踊りを使った遊びがあるんだけど、その遊びが大好きでリハビリセンターの皆とも遊んでいるよ。
2. アル・シャバーブ加入、そして組織での生活
アハメド:リハビリセンターでサッカーをすることもあるよね。
さて、ファイサルの生い立ちから聞いていきたいんだけど、故郷ではどんな生活をしていたか教えてくれる?
ファイサル:
故郷にいた頃は、貧しい家庭に育ったこともあって学校やマドラサ(イスラーム教を学ぶ施設)に通うためのお金がなかったんだ。それで、アル・シャバーブが村につくったマドラサであれば無料でイスラーム教を学べると聞いて、組織に関わるようになってしまったんだ。村のほとんどの若者がアル・シャバーブに入っていたしね。政府やソマリア社会に対して憎しみを持っていたから、アル・シャバーブに関わるようになったわけではないよ。
アハメド:組織に加入した後、アル・シャバーブでの生活はどうだった?
ファイサル:
イスラーム教を学ぶために加入したのに、実際の生活はまるで囚人みたいだった。自由に話すこともできないし、自分で物事を選ぶこともできなかった。僕のことなんか全く気にかけない人の言われるがままに、こき使われてしまった。組織の中にいる間は、将来も心配で、希望もほとんど失ってたよ。唯一の希望はいつの日か組織から離れて自由になることだったんだ。
アハメド:だから、組織から離れようと思ったんだね。
ファイサル:
そうなんだ。このままでは、現世に限らず、来世でも良い人生を送ることができないかもしれないと思ったから、組織から抜けることを決意したよ。
アハメド:アル・シャバーブからは、どんな指導・教育・訓練を受けていたの?
ファイサル:
彼らは「一神教」「祈り」「ジハード(本来は、アラビア語で努力という意味。いわゆるテロ組織においては、暴力を含む戦いを表すことが多い)」に関する3冊の書について少し教えてくれたけど、あまり多くを教えたがらなかった。なぜなら、彼らはその本の真の意味を僕らに理解させたくないから。本の中には、無実の人々を殺害することを禁じているページもあるんだけど、そういう内容を僕らには見せたくなかったんだ。今思うと、彼らの思想に染められた講義を受けていたと思うよ。
▲リハビリセンターでのファイサル。
3. リハビリプログラムの受講/彼が考える、憎しみの連鎖をほどくために必要なこと
アハメド:リハビリセンターでイスラーム教ゼミを受けて、イスラーム教に対する考え方はどう変わった?
ファイサル:
リハビリプログラムを受講する前も、今も、変わらずイスラーム教を信仰しているけど、考え方は違うよ。リハビリセンターでイスラーム教の真の意味を学び、理解できたんだ。リハビリセンターに入る前の考え方は、間違っているものもあったと気づけた。平和、安定、そして互いに助け合う精神が大切なんだ。センターに来てから、イスラーム教の意味を学ぶことができて、良い人生に繋がる道筋が見えてきたと思う。
アハメド:リハビリセンターに初めて来たときはどうだった?センター長やヨスケ(当法人代表・永井)に対する印象も知りたいな。
ファイサル:
アル・シャバーブからリハビリセンターに向かったとき、リハビリセンターに着いたらどうなるのか心配だった。長い間刑務所に収容されるのか、はたまた殺されるのかって。でも、センター長とヨスケに初めて会ったとき、彼らは優しい表情で歓迎してくれた。センター長は私に新しい服と本を買ってくれたね。そして、他のメンバーに私を紹介して、メンバーにはリハビリセンターのルールを私に教えるように頼んでくれた。彼らに会えて本当に嬉しかったし、「救われたんだ、平和の中にいるんだ」と感じた。アル・シャバーブでは厳しい生活を送っていたから、よく休み、よく眠ったよ。
センター長もヨスケも、寛大で親切で、私たちソマリアの若者を助けてくれるし、いつも気にかけてくれるね。
アハメド:そうだね、安全にセンターに来ることができて本当によかった。少し話は変わるけど、残念ながら、ガザでの武力衝突などが続いて世界的に憎しみの連鎖が広がってしまっているよね。ソマリアや世界でこうした負の連鎖を止めるために必要なことは何だと思う?
ファイサル:
イスラーム教は平和な宗教であって、戦争を掲げる宗教ではないことを、ソマリアの学者の方が多くの人びとに伝えることが必要だと思う。イスラーム教はあらゆる種類の犯罪を禁じているし、平和と安らぎに満ちている。
あとは、政府が過激な組織にいる若者たちを支援すべきだと思う。多くの若者たちが、経済的な状況や教育不足のために良い生活を送れずに、組織に利用されてしまっているんだ。
そして何より、自分自身が、平和に暮らしていくことが重要だと思うんだ。武器を持つんじゃなくてね。そのためにも、このセンターでプログラムを通して平和に生きていく道を模索していくよ。
アハメド:そうだね。ファイサルがこれからの未来を形作っていけるように、これからもサポートしていくよ。最後に、将来の目標を教えてくれるかい?
ファイサル:
将来は、コンピュータサイエンスを学びたい。あとは、セールスパーソンになりたいと思っているよ。この2つの目標を将来達成できたらいいな。
さらに、リハビリセンターで学んだことを活かして、ソマリアや世界の平和のために少しでも考えて行動していけたらいいね。
4. 寄付者の皆様へのメッセージ
アハメド:ファイサル、アクセプト・インターナショナルの寄付者の皆さんに対するメッセージをちょうだい。
ファイサル:
皆さんの素晴らしい支援には心から感謝しています。皆さんは、私たちの命を救ってくれたし、命を救うことの重要さも知っています。皆さんのご支援のおかげで教育、健康な食事、医療・衛星面のケア、そして経済的なサポートなどを受けることができています。厳しい紛争の前線で私たちを助けてくれているのは、日本から想いを寄せてくださっている皆さんとアクセプト・インターナショナルだけです。私は、皆さんの支援を一生忘れることはありません。
このセンターが設立されてから、多くの若者がアル・シャバーブから離脱することができました。なぜなら、センターが設立されるまでは、ここガルムドゥグ州でアル・シャバーブから脱退して社会に戻っていくための機会も場所もなかったからです。これからも、多くの若者が組織から脱してこのセンターで一緒に学べることを願っています。
私だけではなく、他の多くの若者も社会に戻っていく機会を得られるように、これからも温かく寄り添っていただけると幸いです。
今まで私たちのためにしていただいたすべてに感謝しています。本当に、いつもありがとうございます。
こうした若者への取り組みは、毎月1,500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご支援があってこそ成り立っています。暴力に絡め取られた若者たちをより多く救い出し、新たな道を力強く支え、テロや紛争の解決に繋げるためには、まだまだ多くの力が必要です。
憎しみの連鎖をほどくため、アンバサダーとしてともに歩んでいただけたら幸いです。
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