[2025年5月]

ソマリア事業部では、いわゆるテロ組織アル・シャバーブから若者たちが抜け出し、平和の担い手として社会に復帰するための取り組みを行っています。
今回は、ソマリア中部における投降促進および社会復帰支援の進捗についてお届けします。
1. ソマリア中部における投降促進の取り組み
ソマリアは複数の武装勢力による紛争が続いており、その中心にはいわゆるテロ組織アル・シャバーブとソマリア政府軍との紛争があります。特にアル・シャバーブはソマリアの3〜4割ほどの領土を支配しており、状況は依然として深刻です。
そうした厳しい状況の中で生きるためにアル・シャバーブへ加入してしまった若者や、組織からの脅迫で強制的に戦闘員になってしまった若者たちがいます。
彼らは組織内で自由に発言することも許されずに酷使され、政府軍との前線でたくさんの若者が命を落としています。
そのため「できるならテロ組織から抜け出したい」と望んでいる若者は実は数多く存在しているのです。
そこで私たちは、彼らがアル・シャバーブから抜け出すため、現地政府軍やアフリカ連合軍、地域コミュニティなどと連携して投降に関する情報を広めるリーフレットの配布や、広範囲へのラジオ放送、そして電話相談窓口の運営を行い、実際に500名以上が組織を抜け出すことを実現してきました。
その一環で、先日はアフリカ連合軍とともに交戦地帯に近いエリアまで直接赴き、地域コミュニティの宗教指導者や代表者の方々に私たちの取り組みを伝え、リーフレット配布への協力もいただきました。
なお、アル・シャバーブにいる若者は「投降をした後に政府などから拷問を受けるのではないか」という恐怖を抱いていることも多いため、リハビリ施設で安心して暮らしながら社会復帰プログラムを受けることができる点も併せて強調するようにしています。

▲最前線に向かい、投降の枠組みを拡散する際の装甲車
(左:投降兵リハビリ施設長 アブディラハマン、右:海外事業局副局長 高橋)

こうした取り組みを通じて、5月には戦闘員をしていた3名の若者が新たに投降しました。

▲5月に投降した元戦闘員の3名
(左から20歳、19歳、20歳の若者)
過酷な経験をした末に命懸けで投降しているため、施設に到着したばかりの彼らの表情はいつもこわばっています。しかし、リハビリ施設で暮らしていくうちにだんだんと笑顔が増え、卒業の時に彼ら自身が到着時の写真を見返して自分たちの変化に驚くこともしばしばです。
2. ソマリア中部リハビリ施設における社会復帰支援
リハビリ施設では、宗教再教育、読み書き算数などの基礎教育、対話によるケアカウンセリング、職業訓練などを行っており、2024年10月〜2025年3月の半年間で19名が無事に卒業し、社会に復帰していきました。現在は常時50名ほどを受け入れており、約1年をかけて1人1人が社会に復帰していきます。
大切にしているのは、アル・シャバーブにいた頃には禁じられていたことも自由にできる環境を整えることです。例えば現地の伝統的な踊りを楽しんだり、トランプをしたりといった娯楽を通して、若者たちが互いに心のつながりを深めていく様子が見られます。
もし施設内で孤立した状態に置かれると、心理的に不安定な状態で過ごすことになり、社会への不信感や疎外感、さらには憎しみを深めてしまう可能性が高まります。そのような状態では、たとえ社会に復帰できたとしてもアル・シャバーブから勧誘を受けた場合に再び心を動かされ、憎しみの連鎖に巻き込まれてしまう恐れもあります。だからこそ「仲間と和気あいあいと過ごす時間」には大きな意義があるのです。

▲現地の伝統的な踊りを楽しむ若者。
※アンバサダーの皆さまには、モザイクなしの動画でお届けしています。

▲神経衰弱をする様子。
余談ですが、過酷な現場にいたこともあってか瞬間記憶力が非常に高く、職員も驚かされています。なお、西洋の遊びであるトランプをアル・シャバーブは禁じていますが、だからこそこうした楽しみを通じて視野を広げることも大切です。
また、昨年秋よりWordやExcelなどの基礎的なパソコンスキルの授業も開始しています。文章の書き方や表の作り方などの基礎を通じて、さまざまな就業機会に繋げることを狙いとしています。
さらに、彼らが施設を卒業してからも経済的に自立して暮らせるよう、金銭感覚を養うための授業も実施しています。日本でも「お金の授業」はあまり浸透していないように思われますが、現地の若者もお金の使い方や管理の方法を学ぶ機会はほとんどなく、貯金をしながら生計を立てていくことができない状況があるためです。

▲パソコンスキルの授業の様子
今後も彼らがリハビリ施設卒業後に再び武器を手にすることなく、平和の担い手として生きていけるよう、包括的な支援を続けてまいります。
3. ソマリア事業部の高橋より、今後の展望と一言
海外事業局の高橋です。ソマリアは今年始めからアル・シャバーブによる攻撃がこれまでになく強くなり、前線の要衝がアル・シャバーブによって奪還されるなど状況がさらに不安定化しています。こうした状況に立ち止まってしまいそうになりますが、それでもこうした時こそ戦闘から離脱したいという想いを持つ若者たちに機会があることを伝え、彼らを受け入れることができるように体制を整える必要があります。そんな想いを持って日々活動しています。
ソマリア中部の最前線で対車両地雷が埋まっている乾燥地帯をひたすらに歩いて訪れ、地域コミュニティの代表者の方々と対話をした際に「アル・シャバーブや政府軍がどちらもコミュニティに訪れるけれど、厳しい生活状況を支援してくれるわけでもなくどちらからも見捨てられてしまっている気分だ」と率直に教えてくださいました。
そんな状況だからこそ、私たちが懸命に赴き、地域の人々や武器を取った若者たちへの想いを伝えた際に、「私たちや若者たちを見捨てずにいてくれることがありがたい」という言葉をいただいたことがとても印象深く頭に残っています。厳しい状況だからこそ、そして誰もできていないことだからこそ、こうした最前線の地域の人々との繋がりと信頼を少しずつ築き、戦闘下にいる若者たちに一緒に声を届けていかなければと強く感じています。
こうした姿勢が必要なのは投降促進だけでなく、投降兵のリハビリ支援や刑務所での支援など、私たちがソマリアで展開している取り組み全てに言えることです。現在、国際ドナーによる投降兵リハビリ施設への支援の停止を受け、私たちがソマリア中部で政府と共に立ち上げ運営してきた投降兵リハビリ施設が、国内で唯一機能しているリハビリ施設になっています。首都モガディシュの中央刑務所も、リスクが高すぎるために長期的な支援の担い手がいない中で、私たちは若者たちが再起していくための取り組みを続けています。
このように私たちの取り組みが、ソマリアの紛争解決に向けてやらなければいけないことのギャップを埋め、少しでも多くの若者たちが戦闘とは異なる新たな可能性を見出すことに繋がるという自覚と誇りを持って、これからもやるべきことを全てやっていきます。

▲ソマリア事業部の高橋。猫のガルちゃんと共に
(ソマリア中部のガルムドゥグ州から名前をとっています)
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