活動報告
【ソマリア事業部】ラジオ放送・投降兵のインタビュー ~地域一体で平和を目指す~

[2024年8月]

ソマリア事業部では、いわゆるテロ組織アル・シャバーブからの投降促進に加え、投降兵・逮捕者が脱過激化し、社会復帰するための取り組みを行っています。

また、ソマリアの一般社会がテロ組織やテロリストについての理解を深め、社会全体で平和に向けた共通認識を持って歩んでいくことも重要であるため、私たちはこれまで、地域コミュニティと元テロリストとの対話の機会を創るとともに、一般社会への啓発・啓蒙などを行ってきました。

今回は、そうした啓発・啓蒙の取り組みの一環として実施したラジオ放送での投降兵へのインタビューの発信についてお届けします。


1.ラジオ放送での投降兵へのインタビュー
2022年10月より、アメリカ国務省からの委託のもと、私たちはラジオ放送を活用した啓発・啓蒙およびテロ組織にいる若者へのアウトリーチの取り組みをしてきました。

ラジオ放送では、いわゆるテロ組織にいた当事者の実情や、私たちの社会復帰プログラムの情報などを発信してきました。彼らの抱える複雑な背景についての一般社会の理解を促し、テロ組織の発信するプロパガンダを相対化すると同時に、現在テロ組織にいる若者たちが組織から投降するきっかけとなる情報を提供することを目指しています。

今回は、各地のラジオ局と連携し、私たちのリハビリセンターにいるソマリア南西部出身の投降兵へのインタビューを放送していただきました。

当事者の生の声を届けることで、リスナーである地域コミュニティの人々に、アル・シャバーブに所属する若者たちの困難な背景や、彼らを地域社会に受け入れることの重要性、そして投降促進への協力の重要性などをリアルに伝えることを狙いとしています。

仮に地域社会が非協力的で、テロ組織にいた若者に対して疑念を持っていると、そもそも投降が上手くいかなかったり、いざ若者が社会に復帰したとしても居場所がなく、若者が幻滅して再び過激化したりすることがあります。彼らが平和の担い手として社会に復帰するうえでは、地域社会からの理解と協力が欠かせません。

また、ラジオ放送では、若者のアル・シャバーブへの加入を未然に防ぐことや、アル・シャバーブにいる若者にも情報を届けて自発的な投降を促すことも目的としています。

特に、テロ組織の支配領域外に住む人々は、組織への勧誘の手口やアル・シャバーブの思想について十分な理解がない場合が多くあります。そのため、若者がテロ組織から勧誘を受けたときに組織に加入しやすくなってしまうのです。また、いわゆるテロ組織アル・シャバーブにいる若者は、得られる情報が限定的になりがちです。そこで、アル・シャバーブの支配領域を含む広範囲の人々に情報を届けるため、ラジオ放送を活用し、組織への新規の加入防止や脱退促進に取り組んでいます。

▲これまでにも、ラジオ放送を通して啓発・啓蒙を行ってきました。

今回、こうした狙いのもと、投降兵へのインタビューを行い、彼のバックグラウンドや組織での生活、過酷な投降の実情、リハビリセンターで学んでいること、そして社会復帰への想いを語ってもらいました。

なお、インタビューの際には、声を変えることや偽名の使用など、セキュリティ面には最大限の配慮を行いました。そして本人の強い希望もあり、インタビューが実現しました。

実際のインタビューから内容を抜粋してご紹介します。

インタビューでの投降兵の声:
「私は、一見すると理想的に聞こえるアル・シャバーブの思想や、支配領域に住む人々が自由に暮らしている話を友達から聞き、それを信じてアル・シャバーブに加入しました」。

「しかし、戦闘の訓練を受けた後は、家族や友だちとの連絡は一切許されず、携帯も没収されました。そして、家族や友だちのいるソマリア南西部から遠く離れたソマリア中部まで送られて戦闘に参加することになりました。そこでは、理由もなく市民や仲間が殺されたり拷問されたりする現実を目の当たりにし、組織に対する疑念が生まれ、次第に大きくなっていきました。そんな中、私自身が連れ去られてしまい拷問を受けることになってしまいました」。

「組織への疑念が深くなっていたことに加え、拷問は肉体的にも精神的にも本当に辛かったことからアル・シャバーブからの投降を決意しました」。

「投降したときは、周りの仲間たちやリハビリセンターのスタッフが温かく受け入れてくれたことに驚きました。投降するまでは内向的だったように思いますが、リハビリセンターでの集団生活を通じて多くの人と関わる機会が増え、積極的にコミュニケーションをとるようになってきていると思います」。

「リハビリセンターで宗教再教育を受けているおかげで、改めて宗教観を見つめ直すことができ、平和とは何かを考えるようになりました。私は、友だちからの偏った情報を信じてアル・シャバーブに加入してしまいましたが、同じような経験をする若者が少しでも減るように、自分にできることをしていきたいと思っています。そして、これからは、今もアル・シャバーブに残っている友だちを助け出せるような平和の担い手になりたいと考えています」。

▲インタビューの様子。

彼のように、テロ組織に所属していたからこそ、その経験をもとに平和な社会の実現に向けて発信できる若者がいます。こうした若者こそ、まさに私たちが考えるユニークな平和の担い手であり、若者には無限の可能性が秘められていると感じます。

これからも、彼らのような若者の可能性を信じ、1人でも多くの若者が平和の担い手となれるよう取り組みを続けてまいります。


2.地域社会のリスナーの反応
彼のインタビュー放送を聴いた現地のリスナーからの声も伺うことができましたので、ご紹介します。

リスナーの声:
「アル・シャバーブの危険性や影響について認識していない若者や地域コミュニティは、まだまだ多く存在します。だからこそ、政府、軍、地域社会が協力し合い、こうした重要な啓発活動を進める必要があると感じます」。

「また、投降兵である彼の背景を理解し、アル・シャバーブのために戦っている若者が地域のコミュニティに復帰できるよう、支援を強化することも必要です。私自身、市民の1人として、ソマリアの平和構築に積極的に参加していきたいと思います」。

リスナーからあがった声の通り、平和なソマリア社会を実現するには、政府、軍、そして地域社会が互いに理解を深め、協力体制を整えることが不可欠です。その一環として、今回のラジオ放送を通して元テロリストの声を多くの市民に届け、地域社会の理解を促進できたことは非常に意義深いものでした。

また、アル・シャバーブの勧誘の手口を知らない若者や組織内にいる若者に向けた情報も発信することができ、加入防止や脱退促進においても意義のある取り組みとなりました。

▲定期的に開催している、リスナーの方への聞き取り調査。

今後も、こうしたラジオ放送やオンラインでの対話フォーラム開催など、ソマリア社会全体が平和への理解を深められるようにさまざまなアプローチを検討していきます。

今後とも温かいご声援をどうぞよろしくお願いいたします。



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