[2024年10月]
ソマリア事業部では、いわゆるテロ組織アル・シャバーブから若者たちが抜け出し、平和の担い手として社会に復帰するための取り組みを行っています。
その一環として、私たちが政府と協働で運営するリハビリセンターでは、テロ組織を抜け出してきた投降兵の社会復帰に向けて、対話を通したケアカウンセリングや職業訓練、基礎教育や宗教再教育などを実施しています。
こうした取り組みには彼らの心身の健康が欠かせないため、心身の健康増進・維持と衛生に関する取り組みを開始しました。
1. 健康増進・維持と衛生に関する取り組みの背景
投降兵の心身の健康や衛生に関しては、これまでにもさまざまな取り組みをしてきました。
例えば、歯ブラシ・歯磨き粉、シャンプー、せっけん、女性用生理用品、などの衛生用品を刑務所やリハビリセンターへ提供しています。また、新型コロナウイルスが流行し始めた頃には、マスクや消毒液の支給を通じて感染防止に努めてきました。
さらに、必要に応じて医者に来てもらい診療や薬の処方をしていただいたり、外部での治療も受けられるように近くの病院と連携を図ったりしてきました。特に、現地の若者は虫歯を抱えていることが多く、自ら抜歯してしまい感染症のリスクが高まってしまうことも珍しくありません。
そうした中で今回、新たな日常的対策として心身の健康増進・維持と衛生に関する取り組みを開始しました。
投降兵の若者は、いわゆるテロ組織アル・シャバーブに関わる中で組織の思想について教えられることは多い一方、自分自身の心身のケアについて教わる機会はほとんどありません。また、過酷な戦闘の経験やアル・シャバーブによる暴力・拷問を受けた経験を持つ者もおり、メンタル面でもケアを必要としています。
だからこそ、カウンセリングのようなアプローチに加えて、健康衛生に関する基礎知識の習得や、食事による栄養管理、植物の世話、運動によるストレス発散など心身の健康促進・管理が必要です。
2. 健康衛生に関する基礎知識の習得
まずは、健康衛生に関する啓発として、手洗い、歯磨き、掃除、排泄物の処理などの方法を説明しています。現在は、リハビリセンター内の各所に手洗いのポスターを掲示してトイレ使用後や食事の前後に必ず手洗いをするよう促しています。
▲手洗いのポスター。
リハビリセンターの各所に貼っています。
▲手洗いをする若者。
3. 食事を通じた栄養管理
さらに、彼らは栄養に関する知識も不足しています。例えば、多量の油とともに豆類のみを食べるといったことがよくあり、特に食物繊維やビタミンが不足しています。
そのため、「炭水化物、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミンなどをバランスよく摂取することが大切である」といった基礎的な栄養の知識を伝え、身近な食品でどうすれば栄養を摂取できるかを考えるようにしています。
そこで、地球上の可食植物の中でも最も栄養価が高いとされ、リハビリセンター内でも多く育てているモリンガという植物を料理に使うことを試みました。担当したのは、私たちのリハビリプログラムを修了し、現在はセンターの料理人として活躍しているムスタファです。
しかし、現地ではモリンガを食べる文化がないことから、料理に苦戦していました。そうした経緯があり、先日、アンバサダーの皆さまにモリンガを使ったレシピ案を募集させていただきました。
今後も、アンバサダーの皆さまと協力して進める取り組みも実施していけたらと考えています。
▲現地で育てているモリンガ
4. 植物や猫の世話
また、リハビリセンターにいる若者の多くは、規則正しい生活を送る習慣がありません。また、自分以外の他者や物事を気遣う大切さを学ぶ機会も限られています。
そこで、若者1人1人に一定区画の畑を提供し、彼らに植物や作物を育ててもらっています。植物の手入れを日課として続け、規則正しい生活を送ることが社会復帰への第一歩になります。また、自分以外の存在を慈しむことを通じて、他者や命の大切さ、思いやり、そしてケアをする責任感を学ぶきっかけになります。ちなみに、リハビリセンターには猫がいて、植物と同じくみんなから愛されていますが、このように他者への姿勢を育むことは、社会復帰に向けて非常に重要です。
なお、植物の世話と食事については、栄養管理の観点で一体的に考えていく必要があります。彼らが社会に復帰した後は、入手できる食材が限られる中で家族を含めて十分な栄養を摂取することが求められるためです。
だからこそ、今後は「どのように栄養を摂り、健康を維持するか」を若者自身が考え、議論する機会を設けることも検討しています。私たちとしても、彼らが社会復帰するうえでは欠かせない健康について、彼ら自身がどう主体的に考えていくのか楽しみです。
▲若者が植物を育てている畑。
パパイヤと観葉植物。
▲若者と猫が触れ合う様子。
5. 運動を通じたストレス発散
同時に、健康促進には運動も欠かせないということで、現地の若者たちはサッカーに熱中したり、綱引きも楽しんだりしています。
▲若者がサッカーをしている様子。
6. まとめ
こうした健康促進の取り組みを行う中で、投降兵の若者からは次のような声があがっています。
若者の声:
「これまでは、自分自身の体や心のケアをすること自体、あまり考えていませんでした。でも、今後は健康な体でリハビリプログラムを受講するためにも、学んだことを活かしていきたいです。また、家族が知らないことも多いので、自分が家族のもとに戻ったらしっかりと伝えて家族の健康にも役立てたいと思います」。
彼らが平和の担い手として社会に復帰し、生きていくためには、彼らの健康が欠かせません。
今後も、若者たちが健康な状態で社会復帰に向けたプログラムに取り組み、リハビリセンター卒業後も家族とともに健やかに暮らしていけるよう、健康や衛生などに関する基礎的知識・ライフスキルを学ぶ機会を組み合わせてまいります。
引き続き、皆さまの温かなご声援をいただけますと幸いです。
【読者の皆様へ】
月1,500円から活動にご参加いただける「アクセプト・アンバサダー」にはモザイクなしの写真に加えて、綱引きをしている様子の動画もお届けしています。また、文中の通り、モリンガを使ったレシピをともに考えていただくなど、現地での取り組みへのご協力もしていただいています。
暴力に絡め取られた若者たちを社会一体となって救い出し、新たな道を歩むことを力強く支え、テロや紛争の解決に繋げるために、この機会にアンバサダーとしてご参加いただけたら幸いです。
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