活動報告
【海外事業局】ECOSOCによる公式サイドイベント開催 ~国際規範制定に向けて~

[2024年5月]

海外事業局では、ソマリアやイエメンなどの紛争地での取り組みに加え、いわゆるテロ組織などの武装勢力に関わっている/いた若者を国際的に保護する枠組みを制定するための活動も行っています。

今回はそうした国際規範制定の取り組みの一環で4月に開催したECOSOC(国連経済社会理事会)によるユースフォーラムの公式サイドイベントについてお伝えします。


1. ユースフォーラムの公式サイドイベント開催の背景/目的
4月18日に、国連総会と並び、国連の主要機関の1つであるECOSOC(国連経済社会理事会)によるユースフォーラムの公式サイドイベントをオンラインにて開催しました。

本イベントは「非国家武装集団に関わる若者(Youth Associated with Non-State Armed Groups: YANSAG)」を取り巻く状況や問題、ニーズに関する国際的な認識を高め、彼らの教育やエンパワーメントについて、国際社会がどのように取り組むことができるのかを議論することを目的としています。

いわゆるテロ組織などの武装勢力に関わっている/いた若者は脆弱であり、平和を構築する上で重要な存在であるものの、特に、教育やエンパワーメント機会の欠如といった重大な課題に直面しています。しかし、各国の政策や国際社会の場でも、彼らのような若者の存在が適切に認識・議論されているとはいえません。

本イベントでは、国連日本政府代表部大使の山中修氏をはじめとする国際政策立案者や、外務副大臣の辻清人氏、シエラレオネやコロンビアの政府関係者、平和構築分野の専門家、また紛争の当事者として若者2名にもご登壇いただきました。

今回は、そのディスカッションの様子を抜粋してお伝えします。


2. サイドイベントでのディスカッション
【オープニング】
本シンポジウムの開催にあたって、山中修氏、シエラレオネ青少年大臣のムハンマド・オルマン・バングラ氏、コロンビア大統領府にて元戦闘員の社会復帰支援に携わるアレハンドラ・ミラー・レストレポ氏より、紛争の当事者を含む若者の可能性や、彼らの抱える問題、特に教育の問題に関して解決の必要性を呼びかけるお言葉を頂戴し、開始されました。

▲(左)山中氏、(右)シエラレオネ青少年大臣のムハンマド氏(写真は代理人)、
(中央下)コロンビア大統領府のアレハンドラ氏

【パネルディスカッション】
パネルディスカッションでは、ジンバブエの平和構築機関で活動中のノービレ・モヨ氏、レバノン内戦にて兵士として戦った過去を持ち、現在はNGOにて平和や和解に関する活動を行うガビ・ジャンマル氏、紛争の当事者としてコロンビア・ソマリアの若者2名が登壇いたしました。

<テーマ①: 教育やエンパワーメントの機会にアクセスするにあたってYANSAGが直面する課題>

ノービレ・モヨ氏:

「武力紛争により基本的なインフラなどは破壊されてしまい、また、若者は適切な教育を受けることができなくなってしまいます。そのような状況下では、収入を得るスキルがない若者にとって、武装組織に入ることが現実的かつ最善の選択肢になることもあります。また、十分な教育が行き届かない場合、たとえ彼らが一度組織から抜けたとしても、再び過激化してしまう可能性が高くなります。まさに若者は武力紛争による悪影響を受けやすい立場にいるのです」。

ガビ・ジャンマル氏:

「教育の場では、戦闘員をヒーローなどと呼ぶことで、現在進行している紛争を正当化してしまうこともあります」。

紛争の当事者である若者(コロンビア):

公教育は受けたものの、就職や実際の生活の場面では役に立ちませんでした。また、元戦闘員であるということで家を借りるのにも苦労し、仕事を得るのが難しい状況が続いています。大学や専門学校、高等専門学校に進学するにおいても高いハードルがあります」。

紛争の当事者である若者(ソマリア):

「アル・シャバーブ(ソマリアで活動するテロ組織)の支配により、日々テロの脅威と強制的な勧誘、教育や医療施設の欠如、清潔な水や食料の不足に悩まされています。また、男性と比べて女性は完全にコミュニティから取り残され、武装組織から抜けたとしても十分なケア、教育、雇用にアクセスすることができません」。

専門家からは、紛争によって若者が受ける影響を現状および長期的な視点からコメントいただいた一方で、YANSAGからは、日常生活におけるリアルな実状について述べていただき、様々な視点から若者の課題を見つめ直すことができました。

<テーマ②:教育によって期待される効果と教育機会の提供の仕方>

ノービレ・モヨ氏:

若者の過激化を防ぐためには、彼らの経済的自立を促進することが重要です。各国政府は、若者や女性の平和と安全保障に関する行動計画を策定することが求められています。どのように彼らが教育へアクセスできるようにするのか、どうすれば若者の過激化を阻止できるのか、どうすれば彼らが必要なスキルを身につける機会を与えられるのか、などを政府レベルで考えていく必要があります」。

ガビ・ジャンマル氏:

「教育を受けた若者でも、失業してしまうと過激な勢力やグループに入ってしまう可能性があります。教育においては、人間としてどうあるべきかを学ぶことこそが重要であると考えます」。

紛争の当事者である若者(コロンビア):

大学を含む高等教育を受けるには金銭的な負担が大きい上に、特に農村部では大学が不足しています。都市部に引っ越すためのお金も確保できず、十分な教育を受けることが難しいのが実状です。地方にも大学が設立されれば、地元を離れる必要がなくなります」。

「教育を受けることで、私たちも子どもたちのためにお金を稼ぐことができ、生活は持続的に豊かになり、かつ地域のコミュニティに貢献することができます」。

紛争の当事者である若者(ソマリア):

「ソマリアでは若い女性の多くは母国語の読み書きができないため、彼女たちに読み書きを含む基礎的な教育の機会を与えることは非常に重要です。暴力の連鎖に巻き込まれないためには、自立する力やレジリエンスを高めていくような支援も非常に重要だと考えます」。

政府レベルで必要とされることなど、専門家ならではの視点からのコメントをいただいた一方、紛争の当事者である若者からは、コロンビア、ソマリアそれぞれの地域における経済や情勢をもとにした必要な教育とその効果についてコメントいただきました。

▲オンラインで5人でディスカッションを行う模様。
(左上)当法人代表・永井、(上中央)モヨ氏、
(右上)コロンビアの若者、(左下)ジャンマル氏、 (右下)ソマリアの若者

【クロージング】
最後に、外務副大臣の辻清人氏より温かいビデオメッセージを頂戴しました。

辻清人氏:

「若者は平和な社会を築く大きな可能性を秘めています。女性を含む若者の教育を受ける権利を守り、彼らへエンパワーメントの機会を与えることは重要です。 アクセプト・インターナショナルが、武装勢力に関わる/関わっていた若者のエンパワーメントを目的とした様々な取り組みをしていることは称賛すべきことです。 本イベントが、彼らの存在と可能性に対する認識を高め、支援を加速させる一助となると確信しています」。

▲外務副大臣・辻清人氏のビデオメッセージ。


3. 総括
日本、シエラレオネ、コロンビア政府の関係者よりメッセージをいただいたことは、日本、そして世界の多様な立場の人々を巻き込みながら国際規範の制定を目指す私たちにとって、非常に意義のあるものでした。

また、イベント全体を通して、いわゆるテロ組織などの武装勢力に関わっている/いた若者の存在に目を向け、彼らが「若者」として生きていくことができる世界の実現に向けた機運を高める機会となりました。


4. 今後の展望
昨年10月にニューヨークにて当法人が開催した国際シンポジウムに引き続き、今回のイベントでは、政府関係者、専門家、そして紛争の当事者である若者自身が登壇し、彼らが抱える課題や必要とする教育・エンパワーメントの機会について共に理解を深めることができました。今後も、今回のようなイベントを対面/オンラインで開催していく予定です。

紛争地の最前線で活動する私たちだからこそ、現場と政府・国連関係者や各専門家を繋ぎ、武装勢力に関わっている/いた若者が抱える課題やニーズを広く共有できるよう働きかけていきます。そして、彼らを国際的に保護する言葉となる国際規範を制定するために、今後も尽力してまいります。



【読者の皆様へ】
現在、当法人は紛争解決に向けてともに歩む同志である「アクセプト・アンバサダー」200名募集キャンペーンを実施中です。

国際規範を制定するには、より多くの皆様にご賛同いただき、お力添えいただくことが不可欠です。この機会にぜひ、皆様とともに、国際規範の制定に向けて歩んでいくことができれば大変幸甚です。

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