SDGsウォッシュとは?SDGsとの正しい向き合い方とともに解説!
出典:
国際連合広報センター「SDGs17の目標」https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/(2024年8月18日閲覧)
皆さんは、最近よく耳にするSDGsという言葉にどのようなイメージを持っているでしょうか。
環境問題や貧困問題など、世界のあらゆる問題の解決を目指すSDGsですが、実は実体を伴っていない活動もあり、正しく理解をしていないと、見せかけのSDGsに騙されてしまうリスクがあります。
本記事ではそうした見せかけのSDGsから、それに対する正しい向き合い方まで、包括的に解説していきます。
SDGsって何?
まず初めに、そもそもSDGsとは何なのでしょうか。
SDGsはSustaibable Development Goalsの略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています¹。2015年に採択されたSDGsは、気候変動、貧困、紛争など様々な社会問題に直面している現代において、私たちが持続可能な社会、つまり人類がこれから先も地球で暮らし続けられる世界を形成してくために、2030年までに達成するべき目標を17のゴールと169のターゲットにまとめました。「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という誓いのもと、すべての国と人々が協力してこれらの目標を達成することを目指しています¹。
ちなみに、SDGsほど認知はされていませんが、実は2000年にはSDGsの前身となるMDGs(Millennium Development Goals: ミレニアム開発目標)が採択されており、SDGsの前身となっています。
MDGsは、極度の貧困の半減やHIV・マラリア対策といった目標では一定の成果をあげましたが、妊産婦や乳幼児死亡率の削減といった目標は達成されず、アフリカやその他の開発途上にある国々での各種目標達成には遅れがありました²。そのため、SDGsでは、MDGsで達成されなかった目標や、取り残されてしまった国や人々に重点を置いています。
さらに、MGDsを超えて、先進国も含んだより幅広い経済・社会・環境に関する目標も含まれるようになりました。なぜなら、これら3つの側面の課題と開発途上国での課題は相互に関連しており、統合されるべき問題と考えられているからです。
つまりSDGsは
・先進国を含め経済・社会・環境の3つの側面を持続可能なものに移行していくこと
・開発途上国における貧困、保健、教育、栄養問題などの解決
この2つが主な柱となっていると言えるでしょう。
²外務省「持続可能な開発目標(SDGs)」2024年3月、https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html(2024年4月26日閲覧)
SDGsウォッシュとは
企業が社会に及ぼす影響が大きくなる中、各企業や団体はそれぞれの事業領域のなかでSDGsに貢献する取り組みを行っています。しかし、実際にはSDGsに取り組んでいるように見せかけているだけで実体を伴っていないものや、あるSDGsには取り組んでいるものの、他の分野でのSDGs達成に悪影響を及ぼしてしまっている場合などもあります。そのような取り組みがSDGsウォッシュと呼ばれています¹。
例えば、アパレル業界では、商品を生産する際に環境保護に取り組んでいる会社が多くあります。それ自体は素晴らしいことなのですが、その生産過程で、開発途上国の労働者への長時間労働や低賃金といった労働搾取が行われているケースが報告されたこともあります。
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の調査によると、中国の新疆ウイグル自治区において、100万人以上のウイグル人と他のテュルク系少数民族のイスラム教徒が中国政府によって強制労働を強いられていると考えられています。そして、ASPIは2019年の時点で、こうした強制労働から直接的または間接的に利益を得ている可能性のある外国企業および中国企業を82社確認しました²。その中には、自社のHPでは環境保護に取り組んでいると記載している企業もあり、SDGsウォッシュとの指摘を受けました。
また、二酸化炭素の排出を削減することを掲げた電気自動車業界においても、その製造において使われるコバルトが、武装勢力の影響が強く残るアフリカのコンゴ民主共和国などの地域で、劣悪な環境下での児童労働によって採掘されたものである点も指摘されています¹。
さらに、近年SDGsの認知度が向上し、CSR(企業の社会的責任)の活動の一環として企業もSDGsに取り組むことが一般的になっています。しかし、CSRを実践しなければならないというプレッシャーや義務感から、企業によっては表面的な活動にとどまってしまう例も散見されます³。
実際、世界中の企業330社を対象とした調査では、サステナブル・レポートでSDGsについて言及している企業のうち、23%しかそれぞれが取り組んでいるSDGsに対して具体的な活動理由を持っていないことが明らかになりました³。つまり、各社の取り組みが無意識のうちにSDGsウォッシュとなっている可能性もあるのです。
出典: ¹Nieuwenkamp, R. “Ever heard of SDGs washing? The urgency of SDG Due Diligence”, OECD Development Matters, 25 September 2017, https://oecd-development-matters.org/2017/09/25/ever-heard-of-sdg-washing-the-urgency-of-sdg-due-diligence/ (Accessed on 26th April 2024)²Xu, V.X. et al. “ Uyghurs for sale”. Australian Strategic Policy Institute, 2020, https://www.aspi.org.au/report/uyghurs-sale (Accessed on 26th April 2024)
³Heras‐Saizarbitoria, I., Urbieta, L. and Boiral, O. (2022) “Organizations’ engagement with sustainable development goals: From cherry‐picking to SDG‐washing?”, Corporate social-responsibility and environmental management, 29(2), pp. 316–328.
▲コンゴ民主共和国の小規模コバルト採掘現場で袋を運ぶ少年 出典: Kara, S (2023) “A young boy carries a sack at a small-scale cobalt mining site in the Democratic Republic of the Congo” Available at: https://www.independent.co.uk/climate-change/news/phone-electric-vehicle-congo-cobalt-mine-b2277665.html (Accessed on 13th July 2024)
SDGsは本当に意味があるのか?
上記のようなSDGsウォッシュの問題により、SDGsは「結局のところビジネスでしかなく、胡散臭い」と感じる人も多くいます。ただ、そもそもSDGsそれ自体にどれだけ意味があるのでしょうか?
結論、SDGsのみでは、世界中のあらゆる社会問題を解決することは難しいと言えます。
もちろん、SDGsは包括的な指針ではありますが、同時に、指針にとどまってしまっているとも言えます。というのも、各国の利害が対立する国際社会においては、指針の先にあるべき具体的な施策や達成までのロードマップを策定することは非常に難しいためです。
また、国際社会で合意が難しい問題はそもそも目標に入れることができません。その最たる例が「紛争」と言えるでしょう。戦争や紛争はSDGsの達成を阻害するものですが、各国の利害が絡み合う場で紛争や戦争の解決について合意を形成することは非常に困難です¹。
だからこそ、SDGsを盲目的に信じるのではなく、本質的な問題解決に向けた具体的な施策や、SDGsに明言されていない問題を考えていく必要があるのです。
出典: ¹三輪信哉 (2022) 「SDGs の国内の動向と今後に関する一考察」『大阪学院大学国際学論集』第33巻第1・2号、 pp. 1-29戦争・紛争とSDGs
先ほど「戦争や戦争がSDGsの達成を阻害する」ことに触れましたが、これについていくつか事例をご紹介します。
まず、環境に対する悪影響が挙げられます。というのも、紛争のなかで武力が用いられ、様々なものが破壊されますが、たくさんの自然や緑もその破壊の対象であるからです。実際に、2023年10月に始まったガザでの紛争では、ガザにある38%から48%の森林や農業地が破壊されたと報告されています¹。
したがって、紛争が解決しなければ、環境に関連するSDGsは達成されないとも言えるのです。
さらに、紛争が起きることで難民問題が発生・拡大し、避難生活の中で貧困に陥ったり、子どもたちが教育を十分に受けられなかったりすることもあります。実際、以下のグラフが示す通り、終わらない武力紛争によって難民・避難民は増え続けており、UNCHRによると2022年時点で1億人以上が住む場所を追われています。
つまり、貧困や教育に関連するSDGsも、紛争の解決に大きく左右されるということです。
▲武力紛争等の発生件数とそれに伴う死者数の推移 出典: Uppsala Conflict Data Program “UCDP Georeferenced Event Dataset Global version 23.1” Available at: https://ucdp.uu.se/downloads/index.html (Accessed on 13th July 2024)
▲世界中の難民・国内避難民の推移 出典: UNCHR “Refugee Data Finder” Available at: https://www.unhcr.org/refugee-statistics/ (Accessed on 14th June 2024)
ここで「SDGsには平和に関する目標もあるのでは?」と思われる方もいるでしょう。
たしかに、SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に(Peace, Justice and Strong Institutions)」のターゲットには、あらゆる暴力の減少が含まれています。しかし、そこには具体的な施策までは明記されていません。
さらに、SDGs16は司法への平等なアクセスにも触れていますが、紛争下にある地域では、武装勢力が実効支配をしている地域もあり、そこに住む人々の司法へのアクセスを達成することは非常に難しい実態があります。
また、紛争地においては、平和(peace)と正義(justice)がトレードオフの関係になることもあるのです。例えば、紛争地でテロ組織に関与していた人々の「罪」に関しては、本来であれば公平な司法のもとで決定されるべきものです。しかし実際には、平和を促進していくために、自らテロ組織を抜け出した人々には特別な恩赦、すなわち「許し」が与えられるケースがあります。つまり、紛争地においては「平和」のために「正義」が犠牲になる場合もあり、SDGs16それ自体でもジレンマを抱えることがあるのです。
つまり、環境、教育、貧困、そして平和と公正に至るまで、たくさんのSDGsの目標が、紛争や戦争の影響を受けているのです。
出典: ¹Ahmed, K., Gayle, D., and Mousa, A. “‘Ecocide in Gaza’: does scale of environmental destruction amount to a war crime?”, The Guardian, 29 March 2024, https://www.theguardian.com/environment/2024/mar/29/gaza-israel-palestinian-war-ecocide-environmental-destruction-pollution-rome-statute-war-crimes-aoe, (Accessed on 26 April 2024)まとめ
本記事ではSDGsとその問題点について書いてきました。
近年、日本におけるSDGsの認知度は格段に高くなり、企業や個人の生活にも影響を与えています。しかし、その知名度が高まるにつれて、SDGsに取り組んでいるように見せかけているだけで実体の伴っていないSDGsウォッシュという問題が新たに生まれてきました。
そして、このSDGsウォッシュといった問題を知らなければ、もしあなたがSDGsに貢献しようとしても、無意識のうちに社会問題を生み出す側になってしまう可能性があります。
さらに、SDGsは包括的な指針ではありますが、それだけで世界中の社会問題を解決できるわけではありません。SDGsを本当に意味があるものにするためには、指針を具体的な施策に落とし込むとともに、SDGsで明確に語られていない領域、例えば武力紛争の解決に向けた取り組みにも目を向けていく必要があります。
持続可能な社会を目指す上では、起きている社会問題の本質に迫り、その解決策を考え実行していく姿勢が求められています。それによって根本的な問題解決、ひいては本当の意味でのSDGsの達成につながっていくのです。
アクセプト・インターナショナルの活動を知り、応援する
私たちは、テロや紛争をなくし平和な世界を実現するために活動しています。これは、開発途上国における貧困の削減、教育機会の提供や環境の保護といったSDGsが掲げる目標の達成を可能にし、加速させるものです。
しかし、紛争やテロなど、ビジネスで解決することが難しい社会問題は取り残され続け、負の連鎖に陥ってしまっています。また、紛争地での活動はさまざまなリスクがあることから、政府からの委託や助成金などで資金を調達するのも極めて難しい実態があります。
そのため、私たちの紛争地における活動は、毎月1,500円(1日50円)から活動を支援していただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした方々からのご寄付をもとに運営しています。
平和的なアプローチで憎しみの連鎖をほどく私たち独自の取り組みは、テロ・紛争解決の分野における最先端であるとして、国際的にも高く評価されています。2020年には、フランスのマクロン大統領が主導する国際会議「パリ平和フォーラム」において、世界を変える解決策の一つとして、私たちの取り組みが日本から初めて選出されました。
世界で続く武力紛争と、それによって増え続ける難民。
こうした危機に対して日本から挑戦していくためには、より多くの方からの賛同が不可欠です。
根本的な問題解決を目指す私たちの取り組みに共感していただけましたら、ぜひアンバサダーとして共に歩むことをご検討いただけますと幸いです。
また、当法人では、活動説明会やドキュメンタリー上映会などのイベントを無料で開催しております。活動についてより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。
アンバサダーとは月1,500円(1日50円)からの継続的なご支援をもとに「テロや紛争のない世界」を、ともに目指す「同志」です。毎月1,500円で1年間支援すると、大工などの職業訓練を、テロ組織にいた若者2名に1ヶ月間提供できます。
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