コラム

戦争と紛争の違いって何?対話による解決ができない現代の紛争の特徴とは?

「戦争と紛争って何が違うんだろう?」

こういった疑問を抱いたことはないでしょうか。そこで、本記事では戦争と紛争の違いや現在の紛争の現状に加え、世界の紛争に対して私たちが行っている活動を紹介します。

戦争と紛争の違いとは?

そもそも、戦争(war)や紛争(conflict)には統一された定義はありません。しかし、一般的には以下のように考えられています。

紛争≒あらゆる争いごとの総称

戦争≒国家間の武力紛争

つまり「紛争」とはあらゆる争いごとを全体的に指す言葉で、例えば子どもの喧嘩も紛争のひとつと捉えられます。そのため紛争は世界中にありふれており、実は身近な存在なのです。

そんな紛争の中でも、この記事では皆さんがイメージされている武力紛争(armed conflict)に着目していきます。武力紛争とは、文字通り武力を伴う紛争です。

なお、世界の武力紛争に関するデータを提供しているスウェーデンのウプサラ大学は、年間25人以上の死者が出た紛争を武力紛争と定義しており、大きく「国家間紛争」「非国家間紛争」に分けられる¹、としています。

この「国家間紛争」が一般的に「戦争」と呼ばれるものであり、国家と国家による武力紛争を指します。例えば、日本をはじめとした枢軸国とアメリカをはじめとした連合国が戦った太平洋戦争や、最近ではロシアとウクライナの戦争が挙げられるでしょう。

また、戦争や紛争に関連した言葉で内戦(civil war)もありますが、これは主に一つの国の内部での武力紛争を指します。つまり「非国家間紛争」の一つと言えるでしょう。例えば、アフリカのソマリアは1980年代後半から国内のいくつかの主体が争っている状態(内戦)が続いています。

ただし「非国家間紛争」は内戦だけではありません。例えば、アメリカ同時多発テロ(2001)を実行したアルカーイダとアメリカとの国境をまたいだ紛争も非国家間紛争の一つです。

このように、紛争・戦争の定義はさまざまで用語も多く登場しますが、一般的に紛争とは、武力紛争、戦争、内戦といったすべての争いごとを包括した言葉として使われており、なかでも戦争とは国家間の武力紛争を示した言葉、と理解していただけます。

出典: ¹Pettersson, T (2023), “UCDP Battle-related Deaths Dataset Codebook v 23.1”, https://ucdp.uu.se/downloads/, (Accessed on 21 April 2024)

現代の紛争の特徴

ではさらに踏み込んで、現代の紛争の特徴について見ていきます。今日では、ロシア・ウクライナの戦争やイスラエル・パレスチナにおける武力衝突など、不安定な情勢が続いており、読者の皆様も関心を持たれているのではないでしょうか。

スウェーデンのウプサラ大学によると、2022年時点で世界全体では189件の武力紛争が起きている¹とされています。そして以下のグラフで示されている通り、ここ30年ほどで増加し続けている状況です。

▲武力紛争の数の変遷
青:国家間による紛争 赤:国家と非国家による紛争 緑:非国家同士の紛争 黄:一方的な暴力 出典: Uppsala Conflict Data Program (2024), “Number of armed conflicts”, https://ourworldindata.org/grapher/number-of-armed-conflicts (Accessed on 21 April 2024)


そのような現代の紛争の特徴は「国家間紛争(いわゆる戦争)」が減り「非国家間紛争」が増加しているという点です。

冷戦が終結する前は、国家間紛争の割合が比較的大きかったものの、冷戦が終結した1989年以降は、非国家主体が武力紛争に関わることが増え、近年急激に増加傾向にあります。

また、非国家間紛争における主体も多様化しており、特に暴力的過激主義を掲げるテロ組織などの武装勢力の台頭が問題を複雑化させています。

暴力的過激主義とは、不寛容な考え方に基づいて自分たち以外の人々の排除や支配を正当化し、暴力を用いて既存の政治的・文化的枠組みを破壊して新たな制度の構築を目指す考え方²です。

例えば、アフリカのソマリアではアル・シャバーブ、中東のイエメンではアンサール・アッラー(フーシ派)などの、いわゆるテロ組織が暴力的過激主義を掲げ、紛争の主体になっているケースがあります。

出典: ¹Uppsala Conflict Data Program, “UCDP – Uppsala Conflict Data Program”,https://ucdp.uu.se/ (Accessed on 12 May 2024)

²Bak, M., Tarp, K.N. and Liang, C.S. (2019), “Defining the Concept of ‘Violent Extremism’”, Geneva Paper, 24/19

▲青・水色が植民地闘争を含む国家間の戦争で、黄色が国家内での紛争(内戦)。冷戦終結後(1989年)、国家間の戦争の数は減るとともに、その規模も小さくなっていきました。 出典: Gates, S. et al. (2016) “Armed conflict by type, 1946-2014”, Available at: https://www.prio.org/publications/8937(Accessed on 12 May 2024)/cite>

いわゆるテロ組織への対応

では、いわゆるテロ組織に対して国際社会はどのような対応をとっているのでしょうか。

これまでの国際社会は、いわゆるテロ組織を完全に駆逐することを目的とした軍事的な取り組み(対テロ戦争)を主に行ってきました。しかし、軍事的な取り組みには以下のような問題点があります。

  1. テロ組織はアメーバ型組織とも呼ばれ、ピラミッド構造のようにトップダウンの組織形態をとっておらず、さまざまな勢力が世界各地に散らばっているため、一つの拠点を軍事的に制圧できたとしても根本的な解決にはならない。
  2. テロ組織は彼らの掲げる過激な思想が根幹にあるため、仮に組織の幹部級を殺害できたとしても再び別の幹部が任命され、テロ行為が繰り返される。
  3. 空爆などの軍事的な取り組みによって一般市民の犠牲者が出てしまい「やられたら、やり返す」といった憎しみの連鎖を助長してしまう。

このように、軍事的な取り組みだけでは問題を解決することが難しい実態があります。

▲主にソマリアで活動しているテロ組織アル・シャバーブ 出典: BBC (2013), “Al-Shabab has been forced out of Somalia’s large settlements”, Available at: https://www.bbc.com/news/world-africa-24587491(Accessed on 12 May 2024)


では、話し合いで紛争を解決することが可能なのでしょうか?結論から言うと、それもまた難しいというのが実情です。

理由はテロ組織との直接的な対話が成り立たないことにあります。

テロ組織が絡まない伝統的な内戦では、政府と反政府勢力がお互いの利害を踏まえた「対話」によって妥協点を見い出し、和平合意などの形で紛争解決を図ってきました。

例えば、南米のコロンビアでは、半世紀続いた内戦が2016年の和平合意をもって終結しました。その後、反政府勢力であった「コロンビア革命軍(FARC)」は合法政党となり、政府に組み込まれていきました。

しかし、テロ組織は過激な思想に基づく国家や世界の樹立といった非現実的な理想を追求し続ける傾向があり、そもそも政府と「対話」をする意思がない場合が多くあります。

また、国際的に「テロ組織」として認定されている組織と「対話」をすることには正当性の問題が絡みます。テロ組織と直接的な対話をすることで「テロを起こせば国と交渉ができる」という前例ができてしまうことから、その選択はこれまでほとんど取られてきませんでした。

このように、テロ組織が関わる紛争は直接的な対話による解決も難しく、前例がありません。そのため国際社会はいまだにその解決策を模索している段階なのです。

テロに関わった若者への平和的アプローチ

ここまでご説明したように、テロ組織への軍事的な取り組みだけでは解決ができず、組織的な対話もできないからこそ、私たちアクセプト・インターナショナルは一人一人との対話を起点とした平和的なアプローチをとっています。

具体的には、アフリカのソマリアや中東のイエメンなどの紛争地にて、テロ組織にいる若者が抜け出すための電話相談窓口の設置に加え、テロ行為に加担した罪で刑務所に収容されている若者に対するカウンセリングや宗教再教育、職業訓練や、地域コミュニティとの和解に向けた対話の場づくりなどを行っています。

▲ソマリアでテロ組織から投降した若者への職業訓練の様子

▲イエメンのフーシ派戦争捕虜に対する宗教再教育の様子

テロ組織からの自主的な投降を増やすとともに、彼ら一人一人がユニークな平和の担い手として社会に戻っていくことで、テロ組織の規模を縮小させ、憎しみの連鎖をほどいていくアプローチは、日本から生まれた紛争解決の新たな一手です。

これまでの取り組みにより、2024年3月時点で500名を超える人々がテロ組織を抜け出し、2,690名以上の若者が社会に復帰しました。この中には、テロ組織で幹部級だった人も含まれています。

まとめ

本記事では、主に紛争について解説してきました。

一般的に、紛争は武力衝突から日々の喧嘩などを含む争いごとの総称であるのに対し、戦争は国家間の武力紛争を指す、ということをお分かりいただけたかと思います。

また、現代の武力紛争では非国家主体が関わることが増え、特にテロ組織が絡む紛争は、軍事的な解決や直接対話による解決が困難であるため、新たなアプローチが世界で求められています。

アクセプト・インターナショナルの活動を知り、応援する

平和的なアプローチで憎しみの連鎖をほどく私たち独自の取り組みは、テロ・紛争解決の分野における最先端であるとして、国際的にも高く評価されています。2020年には、フランスのマクロン大統領が主導する国際会議「パリ平和フォーラム」において、世界を変える解決策の一つとして、私たちの取り組みが日本から初めて選出されました。

しかし、ソマリアやイエメンなどの紛争地域での活動は、さまざまなリスクがある故、政府からの委託や助成金などで資金を獲得するのが極めて難しい実態があります。そのため、毎月1,500円(1日50円)から活動を支援していただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご寄付をもとに事業を運営しています。

世界では武力紛争が続き、それによる難民も増え続けています。

こうした危機に対して日本から挑戦していくためには、より多くの方からの賛同が不可欠です。根本的な問題解決を目指す私たちの取り組みに共感していただけましたら、ぜひアンバサダーとして共に歩むことをご検討いただけますと幸いです。

また当法人では、活動説明会やドキュメンタリー上映会などのイベントを無料で開催しております。活動についてより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。

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アンバサダーとは月1,500円(1日50円)からの継続的なご支援をもとに「テロや紛争のない世界」を、ともに目指す「同志」です。毎月1,500円で1年間支援すると、大工などの職業訓練を、テロ組織にいた若者2名に1ヶ月間提供できます。

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