コラム

紛争が起こる原因とは?解決に向けた心構えとともに解説!

現在世界では武力紛争が続き、それによる難民も増え続けています。ですが、そもそもなぜ紛争は起きてしまうのでしょうか。本記事ではそうした武力紛争が始まってしまう原因を解説していきます。

紛争とは?

そもそも紛争とは何なのでしょうか?

一般的に「紛争」と聞くと、武力を用いた戦いをイメージされる方が多いと思います。ですが、実は紛争とは、あらゆる争いごとを全体的に指す言葉で、例えば子どもの喧嘩も紛争のひとつと捉えられます。そのため紛争は世界中にありふれており、実は身近な存在なのです。

そんな紛争の中でも、この記事では皆さんがイメージされている武力紛争(armed conflict)に着目していきます。武力紛争とは、文字通り武力を伴う紛争です。

なお、世界の武力紛争に関するデータを提供しているスウェーデンのウプサラ大学は、年間25人以上の死者が出た紛争を武力紛争と定義しています¹。

※紛争と戦争の違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています。

出典:
¹Pettersson, T (2023), “UCDP Battle-related Deaths Dataset Codebook v 23.1”, https://ucdp.uu.se/downloads/, (Accessed on 23 June 2024)

武力紛争が起きる根本的な原因

一般的に、武力紛争が起きる要因として、民族、宗教、思想間の対立を思い浮かべる人が多いと思います。実際に、アメリカの政治学者サミュエル・P・ハンチントンは1993年の『文明の衝突』において、冷戦後の世界では、イデオロギーや経済が原因ではなく、文化や宗教、価値観の違いが国際的な緊張と対立を引き起こし、武力紛争が起きると予測しました¹。

しかし、その後のいくつかの研究では、こうした対立は紛争の「手段」として使われているだけであり、根本的な「原因」ではないと考えられています。

たしかに、個別の武力紛争を見ていくと、民族や宗教、思想の違いによって対立する勢力が分かれることが多いのは事実です。

ですが、イギリスの経済学者ポール・コリアーとドイツの経済学者アンケ・ヘフラーの研究をはじめとした様々な研究で、民族、宗教、思想の違いによって対立する勢力が分かれるのは、争いに勝つためには仲間の強い結束が求められ、民族などの仲間意識や信仰心を用いることで人々を強固な絆で結びつけやすいためであると示唆されています²。

さらに、民族が多様な国家ほど紛争の起きる確率が低くなることも示されており、その理由としては、異なる民族グループから構成員を募集するのは、同じ民族グループから募集するよりもコストが高くなり、軍の結束が難しくなるためと考えられています²。

それでは、武力紛争の根本的な原因としてどのような説が唱えられているのでしょうか?

紛争の原因についてはさまざまな研究がなされており、一つの要因を根本的な原因と断定することは不可能です。しかし、その中で有力な説の一つとして先に挙げたコリアーとへフラーの研究が挙げられます。彼らの研究では、経済的な欲求が紛争の根本的な原因である可能性が高いことが示されました²。

この説によると、紛争の原因は経済的な欲求であり、それをもとにした対立が暴力を伴う武力紛争へと発展していくと考えます。そして、対立する集団は自己の正統性を主張するため、紛争の原因を政権に対する不満などと宣伝し、民族や宗教などのアイデンティティーを持ち出して戦闘員を募集するとされています。

▲スーダンにおけるダルフール紛争で焼け焦げた国内避難民用のシェルター。いくつかの要因が絡まり紛争が始まってしまいましたが、その中でも経済的な理由は大きな要因の一つと考えられています。

出典:
M, Khalil (2023) “An Internally Displaced Persons (IDP) shelter which was burned to the ground amidst the ongoing crisis in Sudan” Available at: https://news.un.org/en/story/2023/12/1144787 (Accessed on 15 September 2024)

一方、スウェーデンの政治学者エリック・シダーマンの研究では、集団レベルの政治的および経済的不平等などに基づく「不満」が紛争の根本的な原因であると指摘しました³。彼の研究によると、民族レベルで政治的に排除されたり経済的な不平等があると、自分たちの民族・アイデンティティを強く意識し、その利益を求めるため武力紛争が始まる可能性が高くなることが示されました。つまり、個人レベルではなく集団・民族として不満がたまると、そこから紛争に発展する可能性が高くなるという考え方です。

このように、紛争の根本的な原因として「経済的な欲求」と「集団・民族の不平・不満」の2つの考え方をご紹介しましたが、他にも各国・各地域の文脈に応じてたくさんの考え方があるため、いずれかを紛争の根本要因として断定することはできません。

しかしその中でも、民族・宗教・思想等の違いそれ自体は武力紛争の「原因」ではなく、それを始める「手段」として使われているにすぎないといった考え方は、近年特に重要なものとされています。

出典:
¹Samuel P. Huntington (1993) “The Clash of Civilizations?”, Foreign Affairs, 72 (3), 22-49
²Collier, P. and Hoeffler, A. (2004) “Greed and grievance in civil war”, Oxford economic papers, 56(4), pp. 563-595
³Cederman, L.-E., Gleditsch, K.S. and Buhaug, H. (2013) “Inequality, grievances, and civil war”. Cambridge: Cambridge University Press.

紛争を悪化させる要因

上記のとおり、紛争の根本的な原因を一つに断定することはできません。また、紛争を悪化させ、暴力を伴う大規模な武力紛争に発展させる理由もさまざまあり、歴史的、社会的、経済的、政治的、文化的な要因など、人間の営みの全てが複雑に絡み合って武力紛争となります¹。

例として、1990年代におけるアフリカ各国での内戦が挙げられます。アフリカ大陸では、1940年代から1970年代にかけての脱植民地化の過程で、植民地政府が民主的な統治体制や強固な国家機構を残さずに撤退しました。その結果、財政的、組織的、軍事的に弱体な国家が数多く生まれ、反乱などの内乱の影響を受けやすくなり、武力紛争が多発してしまいました²。

▲ルワンダ虐殺の犠牲者の頭蓋骨。植民地支配やそれによって引き起こされた民族間の格差、経済状況の悪化など、さまざまな要因が重なり、ルワンダ紛争・虐殺へと発展してしまったと考えられています。

出典:
Configmanager (2010) “Rwanda Genocide Memorial” Available at: https://www.flickr.com/photos/configmanager/4474577838/sizes/l/ (Accessed on 17 September 2024)

また、紛争当事者の心理的な状況も武力紛争の悪化・長期化に大きく影響します。

例えば、紛争が一度始まってしまうと、紛争の当事者たちは現状を改善するために対話したり譲りあったりするのではなく、自分たちの目的の達成のみを目指し、できるだけ自分たちに有利な条件で今の状況を変えようとします。その背景には「正しいのはこちらの要求だ。相手は間違っている」という認識や、「こちらの方が強いから勝ち目がある」といった価値判断などが挙げられます。そして、こうした判断は、一方の情報がもう一方にすべて正確に伝わっているわけではないため、相手の状況を正しく認識しないまま下されることが多く、合理的ではないことが多々あります。その結果、なかなか妥協点を見出すことが困難になり、紛争が長期化してしまうことが多いのです³。

さらに、これまで「犠牲」にした時間、資金、政治力、人命などの資産の回収が重視されすぎることで、紛争を続けることで生まれる「新たな出費」が考慮されない場合も多々あります³。

これは、日常生活におけるクレーンゲームを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。クレーンゲームでは、これまで費やしたお金が無駄になると思い、ついついお金を投じてしまいがちですが、同じようなことが紛争においても起きてしまうことがあるのです。

このように、紛争の火種となる対立は、さまざまな要因が絡み合うことで、暴力を伴う大規模な武力紛争へと発展していき、解決が困難になっていきます。

出典
¹堀内伸介(2001)「世銀におけるアフリカの紛争、内戦についての二つの研究とコメント」『平成12年度 自主研究「現代アフリカの紛争問題及び紛争解決の模索」』日本国際問題研究所、pp. 91-108
²Fearon, J.D. and Laitin, D.D. (2003) “Ethnicity, Insurgency, and Civil War”, The American political science review, 97(1), pp. 75-90
³上杉勇司(2023)『どうすれば争いを止められるのか 17歳からの紛争解決学』WAVE出版

アクセプト・インターナショナルの多角的なアプローチ

それでは、どのようにしたら武力紛争を止め、減らしていくことができるのでしょうか?

ここまで確認してきたように、紛争の火種からそれを悪化させる要因まで、武力紛争の原因は多様です。また、国や地域によっても大きく変わってきます。そのため、紛争解決のためには、国や地域の文脈に合わせながら、多角的なアプローチで複合的に要因を取り除いていくことが必要です。

だからこそ、日本生まれの国際NGOである私たちアクセプト・インターナショナルは、国や地域の文脈、さらには個人の背景にまで焦点を当て、包括的なアプローチでテロ・紛争の解決を目指しています。

例えば、アフリカのソマリアや中東のイエメンなどの紛争地域においては、国連や現地政府とも協力して、いわゆるテロ組織に関与している若者たちが組織から抜け出すことを促進し、社会復帰を支援する活動を行っています。

さらに、紛争地においては、経済的に困窮した若者がテロ組織に加入してしまうケースが少なくありません。そのため、テロ行為に加担した罪で刑務所に収容されている若者に対する社会復帰支援の過程では、出所後に彼らが自ら収入を得られる手助けをするため、職業訓練を行っています。

また、家族を失った「憎しみ」によりテロ組織に加入する若者も多くいます。そうした若者には、ケアカウンセリングを通じて、その思いを「家族への愛」と捉え直し、家族を支えるための具体的な手段を共に探しています。

こうして、テロ組織に関わった若者たちが武器を置くことで、いわゆるテロ組織の規模を縮小させ、武力紛争そのものの被害を減らしていくことを狙いとしています。そして、その後の未来を彼らと共に考え、平和の担い手となることを支えていきます。

▲ソマリアでテロ組織から投降した若者への職業訓練の様子

▲ソマリアでテロ組織から投降した若者へのケアカウンセリングの様子

また、彼らが真に平和の担い手として社会に戻っていくには、地域社会が彼らを受け入れることが不可欠です。そこで、私たちは地域コミュニティとの対話の場づくりや紛争当事者であった彼らも参加する被害者への緊急人道支援などを通して、地域社会との和解に繋げ、彼らが平和の担い手としてもう一度社会に戻っていける手助けをしています。

創立10周年を迎えた2021年からは、こうした最前線の現場での取り組みに加えて、最上流での取り組みも行なっています。

具体的には、テロ組織や武装勢力に所属した経験のある若者の声を集め、今まさに紛争に加担している人々の離脱と、彼らの教育やエンパワーメントを実現するための新たな国際規範の制定を目指しています。そして、彼らが組織から抜け出しやすくなる環境をグローバルレベルで構築していき、脆弱な若者たちである彼らが平和の担い手になることを全世界で促進していくことを目指しています。

このように私たちは、
・紛争の当事者に対しての取り組み
・地域社会に対しての取り組み
・グローバルな社会に向けた取り組み
この3つの側面から多角的・包括的な取り組みで武力紛争の複合的な要因を取り除き、その解決を目指しています。

特に、紛争当事者への取り組みでは、上記で挙げた職業訓練やカウンセリングをはじめ、経済、心理、教育、社会など、さまざまな側面からアプローチしています。

これにより、紛争当事者が紛争に関与してしまった多様な背景に向き合い、彼らが平和の担い手として社会に戻る手助けをしています。

まとめ

本記事では紛争の原因について解説してきました。

紛争の根本的な原因は経済的な欲求や民族間の不満などさまざまな説が唱えられていますが、多くの研究において、民族、宗教、思想などの違いは紛争の「原因」ではなく「手段」として使われていると考えられています。

そして、紛争の火種となる対立は、歴史的な背景や紛争当事者の心理的な状況などさまざまな要因が複雑に絡み合うことで、暴力を伴う大規模な武力紛争へと発展していきます。

そのため、紛争解決のためには、国や地域の文脈に合わせながら、多角的なアプローチで複合的な要因を取り除いていくことが重要になるのです。

アクセプト・インターナショナルの活動を知り、応援する

先述の通り、私たちは、テロや紛争をなくし平和な世界を実現するために活動しています。

しかし、ソマリアやイエメンなどの紛争地域での活動は、さまざまなリスクがある故、政府からの委託や助成金などで資金を獲得するのが極めて難しい実態があります。そのため、毎月1,500円(1日50円)から活動を支援していただける「アクセプト・アンバサダー」をはじめとした皆様からのご寄付をもとに事業を運営しています。

平和的なアプローチで憎しみの連鎖をほどく私たち独自の取り組みは、テロ・紛争解決の分野における最先端であるとして、国際的にも高く評価されています。2020年には、フランスのマクロン大統領が主導する国際会議「パリ平和フォーラム」において、世界を変える解決策の一つとして、私たちの取り組みが日本から初めて選出されました。

世界で続く武力紛争と、それによって増え続ける難民。

こうした危機に対して日本から挑戦していくためには、より多くの方からの賛同が不可欠です。根本的な問題解決を目指す私たちの取り組みに共感していただけましたら、ぜひアンバサダーとして共に歩むことをご検討いただけますと幸いです。

また、当法人では、活動説明会やドキュメンタリー上映会などのイベントを無料で開催しております。活動についてより詳しく知りたい方は、ぜひご参加ください。

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アンバサダーとは月1,500円(1日50円)からの継続的なご支援をもとに「テロや紛争のない世界」を、ともに目指す「同志」です。毎月1,500円で1年間支援すると、大工などの職業訓練を、テロ組織にいた若者2名に1ヶ月間提供できます。

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