インドネシア
インドネシア
テロリズムではない
ジハードを、
共に考える。
インドネシアでは、1990年代前半からいわゆるテロ組織ジェマー・イスラミア(JI)が台頭し、ジャカルタやバリ島といった中心都市、周辺国にてテロ行為を実行してきました。また、2010年以降もジャマー・アンシャルット・ダウラ(JAD)等の新たな組織も台頭し、テロによるリスクや被害がインドネシア全体に拡大しています。こうした状況を受け、2010年代後半にかけて警察や国軍により大規模なテロ実行犯の摘発が行われました。テロを首謀した多くの構成員が刑務所に収監されましたが、彼らへの対応が不十分であったり、社会復帰に向けた適切なケアを受けられかったりなどの問題により、過激な思想を持ったまま服役期間を終える方も多くいます。その結果、彼らの多くが出所後も再び過激性の高いコミュニティに戻っており、経済・社会的自立も進んでいません。
一方で、現在もテロ組織は水面下で活動しており、若者を中心とした新たなテロの脅威が存在しています。一部のモスクやSNS等を拠点に社会的不満を煽るメッセージを流し、過激化しやすい機会を増やすことで、それに惹きつけられた若者を組織に勧誘するといった事例が数多く報告されています。これに対し、関係省庁や民間セクターによって技術的な規制が取られていますが、逆に反感を買って過激化を促進してしまうケースもあります。
このように、東南アジアの中で深刻なテロのリスクに晒されているインドネシア国内において、政府による摘発・規制など限定的な対処に止まらず、より包括的なアプローチが必要になっています。そこで私たちは、出所後や刑務所内部のいわゆるテロ組織の元構成員や若者を対象に、脱過激化・社会復帰支援及びオンライン過激化防止の取り組みを実施しています。
テロの要所の一つである中部ジャワ州において、釈放されたいわゆるテロ組織の元構成員を対象に脱過激化・社会復帰支援を行っています。具体的には、彼らが再びテロに加担することを防ぐために、脱過激化セッション及び社会復帰フォローアップを実施しています。
脱過激化セッションでは、彼らの過激な思想を認めた上で、思想の実現においてテロ行為が本当にベストな手段なのか?という切り口から対話をし、彼らの考え方を相対化していきます。実際にテロ行為に関与し服役した経験を持つ彼らだからこそ、テロとは異なる手段を用い、良きイスラーム教徒として世界のためにできることがあるのではないかと問いかけ、彼らと議論を重ねていきます。
社会復帰フォローアップでは、対象者への家庭訪問やケアカウンセリングなどを実施しています。彼らとの対話を通して、社会に復帰していく中で経済的・社会的自立に課題があれば、ともに解決策を考え、長期的にフォローアップしていきます。本事業の対象者の多くは自爆テロやその計画に関わっており、ジェマ・イスラミア(JI)や、ジャマー・アンシャルット・ダウラ(JAD)等の組織に所属していたメンバーも受け入れています。
また、釈放後のメンバーだけでなく、より過激化リスクの高いと考えられる刑務所に収監されている受刑者への脱過激化・社会復帰支援も展開しています。主な対象は、中部ジャワ島を中心に、インドネシア国内の刑務所及び併設されている保護観察所にて、いわゆるテロ組織に所属していた受刑者です。特に元リーダー格や、自爆テロの首謀した受刑者は一般的な刑務所から隔離され、厳重な監視・行動制限の下で生活しています。またそのような刑務所内では、脱過激化や社会復帰に向けた支援が不足しているケースがあります。私たちは彼らを始めとしたテロ行為に加担したとされる受刑者に焦点を当て、心理的なケアや脱過激化を目的としたカウンセリングに加え、保護観察所にて社会的・経済的自立に向けた職業訓練やカウンセリングなども実施しています。さらに、刑務所当局が受刑者への支援を適切に実施できるよう、刑務官や保護観察官を対象とした受刑者に対するアセスメントや職業訓練、受刑者待遇改善などに関する能力強化研修を提供しています。
一方で、暴力的過激主義のさらなる拡大を防ぐために、インドネシア国内における若者を対象に、SNS上での動画配信や、専門家とのオンラインセミナー実施などによる過激化防止の取り組みを行なっています。いわゆるテロ組織への新規加入者は主に29歳以下の若者であり、インターネットやSNSの普及に伴い、オンラインでのリクルート活動が急増しています。そこで私たちは、インドネシアの若者の過激化を研究する専門家チームとともに、アイデンティティの回復を目指した動画を制作し、SNSで発信する取り組みなどを進めています。また、日本・インドネシアの専門家やNGOなど様々な関係者をゲストとして招聘し、オンライン過激化をテーマとしたセミナーを行うことで、市民社会における問題意識の醸成も行っています。